旅日記3 香港トランジット編「走れトキチ!」

 

1月27日 晴れ

 

 目覚まし時計が鳴った。僕は少し茶色く濁ったシャワーを浴びるとホテルをチェックアウトし空港へ向かった。今日は次の国、シンガポールへの移動日だ。

 本来なら約4時間のフライトで移動できるはずなのだが、僕のもっているエアチケットが一旦香港で乗りかえる必要がある為、倍の8時間近いフライトの予定になっている。

 ソウルのキンポー空港に着き出国の手続きを済ませ危険物を感知するゲートを潜るとピー!とブザーが鳴った。

 僕はバックパックを開け荷物を見せる。OKと言われたのですばやく荷物をまとめ搭乗ゲートへと急いだ。危険なものなどあるはずがないのによほど怪しげな人物に見えたのだろうか。

 飛行機に乗りこむとまもなく僕は眠ってしまった。昨夜あまり寝ていないのと連日の疲れからだろうか僕はひたすら眠った。

 しばらくして目を覚ますとちょうど機内食が運ばれてきた。僕は上機嫌でそれをたいらげ食後のコーヒーを飲みながら窓の外を見る。真っ白な雲が広がっている。

.....でも何かおかしい。あまり進んでいない気がするのだ。腕時計はすでに到着時間を指している。

 まてよ、たしか香港は1時間の時差があるじゃないか。僕は時計を1時間戻すと再び眠りについた。また少しして目をさます。おかしい、いくらなんでももうそろそろ着いて良い頃だ。まだ飛行機は着陸する気配すらみせない。

 結局1時間遅れで飛行機は香港へと着陸した。さあ大変だ。

 本当なら乗り継ぎに2時間弱の余裕を持たせてあったのだが、次のエアチケットをあわてて確認すると出発まであと30分しかない。やばい!僕は大急ぎで飛行機を降り次の搭乗ゲートはどこか尋ねる。

 「あっち」僕は礼をいい指された方向へと走る。無い。「こっち」なんだそっちか!僕はまた走る。無い。「あっちだ」そっちはさっき行ったところじゃないか!僕は半狂乱になりながら今来た道を引き返す。すると道を少しそれたところに小さくトランジットと書かれた看板があった。

 僕は急いで通りぬけようとすると空港の係員が検問ゲートをくぐれという。僕が荷物を通すと「ブー」とブザーが鳴った。まただ。僕は荷物を広げて見せるが、係員はスプレースプレーとしきりに連呼する。そんなものは持っていないと言うと、スプレースプレーと声を荒げ、僕の荷物をバラまいた。

 もう好きにしてくれとあきれ果て静観する。するとしばらくしてオースプレー!と僕の荷物から何やら小さな容器を取り出した。.....虫除けスプレー。

 ああ、そういえば僕はこの旅の途中でアフリカに行くことになっており、マラリアの危険がある地域では必需品だと言われ持ってきたのだった。

 僕はそれは虫除けスプレーだからと言うと係員は笑ってOKと言った。僕は撒き散らされた荷物を拾い集めバックにしまい時計を見る。やばいあと10分。

 僕は階段を駆け上がり空港を走りぬける。遠い。走っても走ってもまだ着かない。.....しばらく走りやっと自分の登場ゲートに着いた。時間は3分前、ギリギリセーフ。でも何か変だ。ゲートが閉まっている。

 しまった、間に合わなかったか!すぐ横の電光掲示板を見ると僕の乗る飛行機の便名がまだある。しかしまてよ、時間が1450分になっているじゃないか。今は14時7分だ。
僕は慌てて自分のエアチケットを見る。いや確かに
1410分とある。しかし下の方には1450分と別の時間が。よく読んでみると搭乗開始時刻1410分。僕は笑いながらその場にしゃがみこんだ。

 しかししばらくイスに座って待っていたが遅れているのだろうか、1420分を過ぎてもまだゲートは開かない。するとMr. Yoshihiko Katoと僕の名前を呼ぶアナウンスが流れてきた。

 はい僕が加藤ですが。そうキャセイパシフィックのカウンターに申し出ると、エアチケットをお出しくださいと言う。僕は自分のチケットを差し出すと彼女は別のチケットを僕に手渡した。見るとビジネスクラスと書かれている。前の便が遅れたお詫びにとエコノミーからビジネスクラスへとアップグレードしてくれたのだ。

 僕は礼を言いまたイスに腰を下ろす。しばらくしてゲートが開いた。僕はビジネスクラスなど乗ったこともないのでちょっと嬉しくなった。

 しばらくしてゲートが開いた。僕が用意されたシートに座りまたうとうととし始めると60歳過ぎのおじいさんが、自分は心臓が悪いので席を替わってくれないかと言う。このおじいさんは僕の隣の席らしい。僕はいいですよと言い、通路側の席を譲った。しばらく会話をし、僕が日本人だとわかると急におじいさんは自分の自慢話をはじめだした。

 自分は日本の証券会社の重役だったこと、香港ではカードで100万円も買い物をしたこと、海外にはよく来るらしくいつも110万円を越えるホテルに泊まっていることなどなど。まあそれくらいなら笑って許すのだが、話題がアジアのことになると、あいつらに仕事があるのはわしら日本人のおかげだ、その気になればいつでもクビにすることもできると急に人種差別的な発言をはじめた。さすがにこれには閉口し僕は曖昧な返事をして黙っているとおじいさんはトイレへと立ちあがった。

 戻ってくると今度は僕のことに話題が移った。学生か、いくつだ、何をしている、親は元気か、シンガポールは旅行なのかなどなど。僕が1人で貧乏旅行をしていることを知ると急に態度が変わった。金の無い奴には興味がないらしい。

 その後も延々とシンガポールにつくまでこの人は自慢話を続けた。まったくこういう人がいるから日本人は鼻持ちならぬ金持ちだなんて誤解をうけるんだと心の中で呟く。

 少なくとも僕には金が無い。

空港に着くとおじいさんと別れ、時間がすでに夜だったこともありタクシーに乗りホテルに向かった。しばらくしてホテルに到着し金を払って降りようとした。

メーターが11シンガポール$をさしていたので、そのままはらおうとすると彼は16シンガポール$だという。僕はメーターは11$になっているじゃないかと言うと、タクシーの運転手はメーターの電源を切り何やらボタンを押してレシートを出す。そこには16シンガポール$と書かれており、彼が言うにはレシートが正しいんだと言う。 

 しばらく押し問答を続けるが結局16$払ってタクシーを降りることになった。こんな時に語学力が無いのが僕の致命傷だ。僕はため息を着きながらホテルにチェックインしいつもより少し早く眠りについた。

 

 

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