旅日記5 シンガポール編 vol.2 「負けないようにれないように」

129日 雨

 

 僕は朝目覚めるとそのままホテルから地下鉄の最寄駅アウトラムパークへと向かった。今日は黄熱病の予防接種を受ける日だ。

 昨夜は突然の出来事でひどく落ち込んだが一晩寝て少し落ち着いたのか元気がでてきた。  きっと何か方法があるはずだ。とりあえず僕はフロリダが駄目ならオーストラリア、そして日本に電話してそこからフロリダを攻略することを考えていた。また最悪まだ手元のカードの口座には1ヶ月くらい旅をするだけの資金がある。長期戦覚悟で出来ることは全部やってやろうと思っていた。立ち直りの早いのが僕の数少ない長所の1つなのである。

 地下鉄のノベナ駅で降りると昨日教わった場所へと急いだ。受付で予防接種の予約をしたものなのですがというとMr.Katoですねと答えが返ってきた。僕が頷くと彼女はじゃあこれに記入してくださいと何やら用紙を手渡した。辞書を片手に空欄を埋める。パスポートの提示を済ませた後、奥の診察室に通された。

 そこで先程の受付の女史がいろいろ質問をしてくる。流暢な英語なのだが専門用語が織り交ざっているのでなかなか僕には質問の意味が理解できない。黄熱病の予防注射は予防接種の中でもかなり強いほうにあたり、下手をすると逆にアレルギー等で命にかかわる大事になりかねないだけに、向こうも曖昧な回答では許してくれないのだ。

 女史が何やら先程からしきりにいっているのだがどうしても理解できないものが1つあった。それは何ですかと辞書を手渡し指し示してもらおうとするが、いやいいとそれを僕に返し奥から何やら英語でかかれた解説書みたいなのを持ってきた。

 それには絵がついており上に大きく「マラリア」と書かれてあった。ああマラリヤねと言うと彼女に発音を正された。どうやらアフリカに行くならマラリアの予防薬が必要だよと言っているらしい。

 僕はマラリアの予防薬はタイのバンコクで入手するつもりでいたのだが、シンガポールでも入手できるのかと聞くともちろんと彼女はこたえた。ただここではなく医師にそれを言いなさいとの回答。わかりましたと答え礼を言い診察室を後にした。それから奥で予防接種を受けた後受付でイエローカードをもらいそこを後にした。

 僕は表の公衆電話から昨日訪れたオーチャードロードの日本人医師の所へ電話する。そこでマラリアの予防薬は扱っているか効くとありますよとのこと。今から伺いたいのですがと無理を言いそのまま予約を入れてもらった。やったラッキーだ。

 テレホンカードをポケットにしまい地下鉄へと急いだ。昨日のテレホンカードも思いもよらないところで役にたった。

 オーチャードにつくとそのまま診療所を目指す。そこで診察してもらい予防薬を7錠受け取ってそこを後にした。医師が言うにはアフリカへ入る1週前から週に1回1錠ずつ服用し、帰国してからも一月くらい念のため飲みつづけてくださいとのことだった。薬を見るとLariumと書かれてある。どうやらメフロキンの1種のようだ。

 僕はその足で昨日の小池さんのオフィスへと急ぐ。昨夜の件について相談する為だ。オフィスを訪れると昨日は小池さん1人だった日本人が他にも若い男性と社長と思われる年配の女性がそこで仕事をしていた。僕が小池さんに事情を説明すると他の社員の人と相談をはじめた。すると女社長さんがそれは酷いとまるで自分の事のように激怒し、シンガポールのシティーバンクへ電話してくれた。するとやはりインターナショナルでないと分からないといわれたらしくそのまま昨日何度もまわした電話番号をコレクトコールの交換手に告げていた。そして僕に受話器を差し出す。

 電話に出ると日本語でどうしましたか?と聞こえてきた。話をしているうちに電話先の相手が昨日のオーストラリアのMsグットショーさんであることがあわかった。彼女は僕のことを覚えていたらしく、昨夜の出来事を話すとそれは酷いと言って、すぐ詳細を見てみますからと調べてくれた。しかし今サーバがダウンしているとかで40分後にこちらからあなたのホテルに連絡しますとのこと。彼女は昨日伝えた連絡先を繰り返しここでいいですか?と聞いてくる。はいと僕は答えホテルで彼女からの連絡を待つことになった。

 僕は小池さん達に礼を言ってホテルに戻った。すると約束の時間にホテルの電話が鳴った。するとグットショーさんが言うにはサーバは復旧したがこの件に関してはすでに解決済みとなっており、フロリダのミスエイミー以外はタッチしてはいけないことになってしまっているとのことだった。僕は状況を説明し何とかしてもらえないだろうかと頼んだ。彼女は難しいかもしれないが、なんとかやってみますとのこと。ただミスエイミーが土日でお休みを取っているのでE-MAILで伝えてみるとのことだった。返事は月曜日以降になるとのことだったので、僕が明日からマレーシアのペナン島とタイのバンコクへ移動することを話し、バンコクで僕が落ち着いてからオーストラリアに電話をかけるということで話はまとまった。このグットショーさんは日本語が堪能な為通訳を通す必要がないし、昨日のエイミーさんよりずっと親切に感じた。僕は彼女に何度もお願いし受話器を置いた。

 その後僕は今日まだ何も口していなかったことに気づき、中華街へと繰り出した。そこで僕は魚の粥とコーラを注文した。これで6$、日本円で約370円。味はまずまずだった。部屋に帰ってメールをチェックすると恋人からメールが届いていた。そこには落ち込まず元気を出すようにと激励のメッセージが。また僕のために色々動き回ってくれたみたいで、何と昨日のMsエイミーとも話しをしたという。ただ本人でないと教えられないとのことだったらしく、他にも日本やシンガポールの緊急連絡先の電話番号がそこに記されてあった。どちらかというと引っ込み思案な彼女がここまでやってくれたことを嬉しく思い、なんとか頑張らなくてはと強く思った。その後片っ端から電話をするがやはりたらい回しにされたあげくまた振り出しに戻ってしまう。後は日本のまだかけていない電話番号が1つだけあったが、平日の昼間しか対応していないとのことだったので、今日はとりあえずあきらめることにした。僕は手付かずだった日記をまとめあげ日本の友人にE-MAILで送った。するとすぐ返事が返ってきて明日にはHPを立ち上げるからとのこと。まったくいつもながら彼の素早い対応には感服する。

 時計を見るとすでに夜の1時を回っていた。明日はシンガポールから列車でマレーシアに移動する日だ。僕はノートブックの電源を切って眠りついた。

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