旅日記7 マレーシア編 「ただ穏やかには流れて」

2月1日(晴)〜2月2日(晴)

 

ものすごい大音量と共に目が覚めた。昨夜聞いたあのイスラム教の音楽だ。1日5回毎日必ず流れるとのことだったが、これから毎朝僕はこんな目覚めを繰り返さねばならないのだろうか。

 シャワーを浴びて着替えると地図を片手に昨夜釜飯屋で出会ったおじさんの言っていたペナンヒルを目指すことにした。

 ペナン通りを南下するとちょっとした鞄屋があった。僕は小さい方のバックパックを韓国で駄目にされ、その後小さなビニールの袋で代用していたのだが鉄道での移動の際それも破れて駄目にしてしまっていた。おそらく偽物であろうアディダスのデイバックを1つ手に取りいくらか尋ねる。25RM。日本円にすると約750円。

 僕は高いと言ってもうちょっとまからないか聞いてみた。すると店主はこれでも安くしているのだこれ以上は下げられないと強気で返してくる。僕は自分のポケットをまさぐってみせ中から21.6RMを取り出す。これしかないからなんとかならないかと言ってみた。すると店主はそれしかないならこっちだといかにも安物に見えるダサダサのバックを僕に差し出す。僕はそれを受け取りひとしきり眺めた後、これならいらないと店主に返した。

 あっちのバックが欲しいんだ、なんとかならないかと尋ねるが店主は25RMと言ったきり頑として値を下げようとはしない。僕はどうしてもそのバックが欲しかったのでもう一度ポケットをまさぐり10RM紙幣を3枚取り出した。

 あれ、あるじゃないかとたった今見つかったと言わんがばかりの表情をしてみせ店主に30RMを手渡す。本当ははじめから自分がいくら持っているか知っていたのだが、まけてくれないかなと一芝居うったのだった。しかし店主はバックを僕に手渡した後いっこうにおつりを返す気配をみせない。僕が5RMと強く言うと店主は気まずそうな顔をしておつりを返してよこした。

 しばらく歩くと街の中心部へでた。ペナンヒルへ行くバスはどれですかと聞いてみるが皆知らないという。ここは例のごとく行き先も時刻表もバス停の札すらない街なので弱り果てる。すると先程話し掛けた中国系の女の子がなんでペナンヒルへ行きたいの?と聞いてきた。僕はペナン島を一望しようと思ってと言うと、じゃああそこに言ってみたらとすぐ近くの高層ビルを指差した。彼女が指し示した方向を見ると円筒形の高くそびえたったビルがあった。持っていた地図で確かめるとコムタという65階建てのビルで展望台があるようだった。僕は礼を言ってコムタへと向かった。

 エレベーターに乗りこむと中国系のおばさんが58階のボタンを押す。あっという間にエレベータは展望台へと僕を運んでくれた。入り口のところで僕は言われた通り5RMを支払い窓の外を覗きこむ。すると本当にペナン島を一望することができた。僕は自分が泊まっているホテルや昨日乗ったフェリー乗り場などを探す。ああそういえばと僕は持ってきたカメラで写真を何枚か撮った。

コムタの展望台から見たペナンの街(マレーシア)

 

 韓国で飯島さん達と飲んだとき以来トラベラーズチェックのごたごたがあって写真を取るどころではなかったのだが、僕は旅を楽しむ気持ちを思い出したかのようにはしゃいでその後も写真を取りまくった。コムタを降りて街をぶらつく。トライショーという名の自転車の前に客席がついた簡易タクシーみたいな乗り物がここでは頻繁に行き来しているのだが、ちょうど子供をのせたトライショーが通りかったのでシャッターチャンスとばかりカメラを向ける。しかし写真家の素養のない僕はここだと思いカメラのボタンを押すがタイミングがずれた面白くもなんともないポイントでカシャっとシャッターが切れてしまう。

 悔しかったので何度か挑戦してみるが同じことの繰り返しだったので止めることにした。ホテルに一旦戻り少し休む。ふと窓を見ると先程のコムタがはっきりと見えたので、僕は今朝買ったバックからカメラを取り出しシャッターを切った。そこでちょうど1本目のフイルムが終わった。

 その後お昼時だったのでホテルのすぐ横のナシカンダールというインドカレー屋へ向かう。ここには3件同じじような店が並んでおり昨日の店はゴキブリ事件でこりていたので今度はそのすぐ隣の奥まった真中の店に入ってみた。チキンカレーとコーラで6RM、約180円。味は昨日の店よりもうまかった。ただ足元には子猫がうろつき、皿のまわりには相変わらず無数のハエが飛び回っていたのだけれど。

 ホテルの前のセブンイレブンで水を買って帰る。500mlで1.RM、約36円。ホテルの部屋に戻ると少し体がだるかったので大事を取って一眠りすることにした。

 夕方目を覚ましペナン通り沿いの屋台をぶらつく。おいしそうなスープ屋があったのでチキンスープを頼む。これに食パンが1枚ついて2.RM、約80円。

 この日はやはり少し体調がすぐれなかったので、そのまま部屋で日記をつけて眠ることにした。

 

 翌朝目をさますとすっかり体調はよくなっていた。ここは国際電話もローカルのフリーダイヤルもつかえないのでトラベラーズチェックの事は一旦忘れのんびり街をぶらつくことにする。ペナン通りからチュリア通りを曲がってひたすら港の方へ歩く。明日にはもうこのペナンを発つ予定なのでフェリー乗り場までの道の下見を兼ねてひたすらぶらぶら歩く。すると朝市がならんでいた。僕はそれを一通り眺めた後一軒の店で朝食にとワンタンミーを注文する。これはいわゆる日本でいうところのワンタンメンだ。

 最初味が少し薄いかなと思ったが、一緒に出された茶色い調味料を混ぜてみる。うまい。どうやらその調味料は中華風の醤油みたいだった。これで2RM、約60円。

 その後フェリー乗り場まで来ると僕はそのまま道沿いに海岸線の方へと歩いた。しばらく行くと遊歩道になっていて、潮風が心地よく僕の体をすり抜けて行く。この日はとても暑い1日だったが、少しだけ立ち止まって海を眺めることにした。現地のおっちゃんが1人だけ気持ちよさげに泳いでいたが、海はごみまみれて非常に汚かった。少しげんなりしながら僕はまたひたすら歩く。2時間近く歩いた後僕は自分のホテルの前まで戻ってきた。昼時だったのでそのままペナン通りを歩いてどこかで昼食を取ることにした。

 暑い。今日はいったい何度あるのだろう、とにかく暑い。警察署らしき建物の前の木陰で少し休んでいると1件の店が賑わいをみせている。中に入ると中華風のベジタリアンフードの店だった。

 ご飯に3種類好きな具を選んでかけてもらう。それと温かい中国茶をたのんで2.RM、約70円。さっぱりしていてなかなかうまかった。

 しばらく歩くがあまりにも暑かったのでホテルに引き上げることにする。他にすることがなかったので昼寝をすることにした。こんなにも穏やかに時が流れて行くのは久々だ。僕は忘れていた子供の頃の夏休みに河原で遊んでいる夢を見ていた。

 目を覚ますとすでに夕方だった。僕は昨日のインド人のカレー屋で夕食を取り、水を買って部屋へ戻る。特に何もない島だったが、僕はここで何もしないことの大切さを教わった気がする。街では人も犬も猫ものんびりと昼寝をしたりくつろいだりしていた。僕はこれでいいのかもしれないなと思った。

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