旅日記10 タイ編 Vol.2 「アユタヤは然に」

 

26日(晴)

 

 朝目覚めると僕はゲストハウスのロビーへ出た。ここは朝食付きなのでパンとコーヒーといった簡単な食事を済ませる。しばらく寛いでいるとすぐ後ろから日本語が聞こえてくるので振り返る。すると日本人らしき3人組がいたのでご一緒してもいいですかと尋ねると、どうぞどうぞとのことだったので僕はお言葉に甘えることにした。

 しばらく話をすると皆それぞれ1人旅で偶然この宿で出会ったたとのこと。その中で坂本君という大学の卒業旅行で来ている青年が、今日特に何も決めてないんですよ何かないですかねと話かけてきた。人の良さそうな青年だったこともあり、急遽なぜか一緒にアユタヤに行くことになった。

 9時半ロビー集合にして部屋で準備をする。一応時間があったら行ってみようとアユタヤーの資料を持ってきていたので調べると、戦勝記念塔というところからミニバスがでているとのこと。僕達はバスに乗ってまずその戦勝記念塔とやらを目指すことにする。バンコクの市バスは驚くほど安かった。どこまで乗っても一律3.5バーツ。日本円で約10円。

 今日はギターの弦も買うつもりだったので、坂本君に楽器屋があったら寄ってもいいですかと尋ねるとどうぞとのこと。戦勝記念塔で近くに楽器屋が無いか尋ねるとすぐ近くのデパートを教えてくれた。ただ11時から営業とのことで坂本君と30分程マクドナルドでポテトSだけで時間をつぶす。これで22バーツ、日本円で66円。

 その間色々話をしたところによると、彼は立教大の学生で今回はプーケット島でのスキューバーダイビングがメインだったとのこと。ただ持っているチケットがプーケットインのバンコクアウトだった為、昨日夜行バスでこちらに着いたということだった。

 時間がきたので楽器屋のコーナーへ急ぐ。するとギターの弦があるにはあったが、1セット258バーツとのこと。日本のもよりずっとモノが悪くしかも値段は倍以上である。しかたなく2セット買うがやはり需要が少ない為であろうか、これで516バーツ。約1580円。ちなみに僕の泊まっているゲストハウスの宿代が1泊朝食付で380バーツ。約1160円。

 その後アユタヤー行きのバス停を探すがそれらしきものが見当たらないので、英語が話せそうな女性を捕まえて尋ねると乗り場まで連れていってくれた。しかし行ってみるとバス停も何も無いところに1台の普通のワゴンが止まっている。どうやら人が集まったら適当に走り出す仕組みらしい。

 僕達は1人40バーツ支払ってこの怪しげなワゴンに乗った。すると僕達が乗ったところで直ぐワゴンは走りだした。

 オンボロワゴンの車内を見渡すと僕達の他は皆タイ人ばかりだ。この人達もアユタヤに行くのだろうか?と思っていると彼等は途中で続々と降りていった。

 バンコクからアユタヤまでは約90km。通常バスだと約2時間前後、列車でもほぼ同じ位はかかる。ただこのワゴンの兄ちゃんはかなりスピード狂らしく1時間あまりでアユタヤに着いてしまった。もっともおかげで寿命はだいぶ縮んだが。

 結局終点のアユタヤまで乗っていたのは僕達2人だけだった。

 ワゴンを降りるとすぐそこにトゥクトゥクという3輪のミゼットみたいなタクシーが待っていた。僕は当初アユタヤというのは一箇所の建物を指しているのかと思っていたのだが、日本でいうところの京都とか奈良みたいなもで、遺跡自体はそれぞれ散らばっているとのこと。僕達が値段を聞くと3時間で1人300バーツという。相場が1時間1人150バーツらしいのでこれでもかなり良心的な値段なのだが、僕達は値切りまくって2人で3時間500バーツにしてもらった。1人あたり約750円。

 僕達はトゥクトゥクに乗ってアユタヤを見て回る。なかなはか迫力があって僕達は来てよかったと話していたのだが、2時間もするとさすがに少し飽きてきた。僕達はもういいからこれで最後にしようと寝釈迦のあるワットロカヤスタで運転手のお姉さんに告げる。するとお姉さんはわかったと頷くのだが、またしばらく走ると違う遺跡へと僕達を連れていってくれる。僕達は何度もこれで最後と毎回ニュアンスを変えて英語で話すが、同じ事をあと4回繰り返す羽目になった。



 バス停に戻ってバンコクに戻りたいんだと言うとようやく通じたらしく、バス停へと向かってくれた。どうやら約束では3時間だったのにまだ2時間半しかたっていなかったのでお金がもらえないのではと思われたのかもしれない。

 僕達が約束の金額を手渡すと何度もsee you againを繰り替えしていた。


 その後今度はちゃんとしたバンコク行きのバスに乗る。これも同じ40バーツで予定通り2時間程かかってバンコクの北バスターミナルへ着いた。だが北バスターミナルはターミナルでもここは旧北バスターミナルのようだ。

 バンコクには8つくらい巨大なターミナルがあるのだが、アユタヤから出ているバスは新北バスターミナル行きのものと旧北バスターミナル行きのもの、そして行きに乗った戦勝記念塔のマイクロバスの3種類がある。

 そのうちの新北バスターミナルに着けばまだ出来たてのバンコク市内を走るモノレールの始発駅が直ぐ目の前にあったのだが、こちらの旧ターミナルは郊外の簡素なところにありしかも無数にバスがあるので人に聞いてもサヤームスクウェア行きのバスがどれかわからない状態。タクシーに乗ろうかと思ったが、坂本君がそれは悔しいからと一緒に歩くことになった。その後延々と3時間程あるいてやっとバス通りのある大通りへ出ることができた。

 僕達は手持ちの地図に乗っていたバスに乗るが、運転手に聞くとこのバスは行かないから後からくる29番にのりなと言われ次のバス停で降ろされる。しばらく待って29番が来たので乗る。念の為に運転手に聞くとこれも行かないといわれ次のバス停でまた下ろされる。本当にバンコクの市バスは何がなんだかわからない。

 バスは2つともお金は払わなくてもよかったが、これからどうしようかと2人で困り果てていた。しかしふと見ると目の前に新北バスターミナルが見える。ということはここはモノレールの始発駅モーチットだ。僕達は喜び勇んでバンコクのモノレールBTSに乗る。サーヤムまで30バーツ、約90

 サーヤムに戻って僕達は東急のビルの中に入っている日本料理屋へ入った。僕は鯖塩定食を頼み、坂本君は雑煮と卵雑炊を頼んでた。鯖塩定食が143バーツ、約430円。ちょっと高かったがボリュームもあり、味もまずまずだった。

 坂本君と2人でビールとつまみを買って帰る。明日は坂本君が帰国するとのことだったのでお別れ会を兼ねて日本人親睦会を開くことになった。僕達は明日坂本君が一緒に空港へ向かうことになっているシイノさんも誘ってロビーで宴をはじめる。

 シイノさんは女性1人でこの後ミャンマーへ向かうというパワフルな東北人で、僕と同じ年とのことだった。3人で宴会をしているとまた他の大学生2人が僕達もお仲間にいれてくださいと申しでてきた。この日は僕の知っているだけでもあと3人日本人が泊まっており少なくても8人日本人がいる計算になる。部屋数から言っても殆ど日本人宿と化していた。

 宴会が終わって坂本君とアドレスを交換する。少し潔癖症なところがある彼だが、なかなか行動力もありしっかりしていて礼儀正しい。僕がどちらかと言うとイケイケのアクセル派なのに対し、彼は慎重に物事を進めるブレーキ派でなかなか良いコンビだった。

 もう1日早く出会えていたらと互いに残念がっていたが、こんな出会いがあるからこそ旅はいいなと、自分の部屋に戻ると僕はしばらく今日1日を反芻していた。

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