旅日記71 イタリア編vol.3
 「幸の青」

8月6日ー9日

 朝9時に宿をチェックアウトし、ローマのテルミニ駅へ向かう。昨夜ふと曲のイメージがわき、夜中3時まで曲を書いていたので、少し眠い

フランクフルトへ行った時、グラさんと8月上旬に南イタリアへ遊びに行こうという話になっていたので、昨日の夕方電話すると、大丈夫というので、昼1時半にナポリ駅で待ちあわせをすることにした

駅のマクドナルドで時間をつぶして、11時45分発のインターシティーに乗ろうとするが、発車5分前になっても、掲示板にゲートNOが表示されない。どうやら遅れているようだ

55分ころになってようやく、20分遅れ電車が出ると掲示板に出たので、書いてあるゲートナンバーにそって、列車が到着するなり乗り込む。しかし発車予定時刻を過ぎても列車はなかなか動きださない

隣に座ったイタリア人のお姉さんに、何時にでるの?と聞いても、わからない、でも遅れているみたいという返事が返ってきた

ナポリで友達が待ってるのになあ、、、とつぶやくと、今何ていった?これはミラノ行きだよと言われ、慌てて列車を飛び降りる

えっ何で?ちゃんと行き先を確認して乗ったのにと、ホームに設置された掲示板を見ると、確かに乗るときにはナポリと書かれていたのに、いつの間にかミラノに変わっている。何がなんだか訳がわからない

しかしいつまでもこうしている訳にもいかないので、急いで次の電車を探すが、次はもう12時45分発のユーロスターしかなく、追加料金を払ってそれに飛び乗るはめになる

結局ナポリについたのは午後2時半。約束よりも1時間遅れだ

しかし携帯電話もなく、駅で待ち合わせのため、連絡手段はない。列車の中でも、無事に会えるか気が気でなく、駅につくなりグラさんを探すが、どこにも見当たらない。、、、怒って帰ってしまったのだろうか

次のローマから来る、ローカル電車のホームを確認し、そこへ向かう。すると、、、いた!グラさんだ

ごめんなさーい!と言って駆け寄ると、もーうどうしたのー、加藤君来ないのかと思ったよ、でも会えてよかったぁと、顔を真っ赤にしていた

事情を話し、ひたすら平謝りに謝る。トラぶったときのことを、あらかじめ考えておけばよかったのだが、やはりなかなか物事は順調には進まないものらしい

とりあえず駅前の安宿を探し、荷物を置いて歩いてサンタルチア港へと向かう。思ったよりも時間がかかり、着いた頃には日も沈む8時ごろ。1時時間以上も歩きまわりかなり疲れたが、でもサンタルチアからの夜景は、まるで宝石箱を開けたかのように、素晴らしく輝いて見えた

この日は日曜日で、人通りも少なかったので、帰りはタクシーに乗る。すると車だと僅か5分程で帰って来れた。まったく炎天下の中を大変な思いをして、さ迷ったのは何だったんだろう

しかし料金の支払いになって、やはりというか、ドライバーがかなり吹っ掛けてきた。タクシーのメータは、8000となっているのに、8000を払おうとすると、NO!今日は日曜日なので18000イタリアリラだと言う。なんで8000が18000にもなるんだと言うと、ほら日曜日には追加料金がかかると書いてあるだろうと、何やら用紙を見せられる。しかしよく見てみると、そこには追加料金3000リラと書いてある。3000だったらあわせて11000リラじゃないかというと、NO!NO!と言ってきかない。理由はと聞くと、うーん、うーん、、、とにかく18000リラという答え

何じゃそりゃ、じゃあ君の名前を教えてくれ、あと車のナンバーも控えておくがいいかい?と聞くと、俺を信用しないのか?そんなんだったら金は要らないと怒りだした

こりゃ下手な芝居だなと、11000リラだけ置いてさっさとタクシーを降りる。しかし追いかけてこなかったところを見ると、適切な値段だったのだろう。さすがここは南イタリアだ

その後、駅前のレストランでグラさんに夕食をごちそうになる。イタリアに来て以来、安ピッツァとジェラード、そしてコーラくらいしか口にしていなかったので、本格イタリア料理とワインに舌鼓を打ちながら、フランクフルト以後の旅の話などをした

翌日は宿をチェックアウトし、駅前からR2のバスに乗りベヴェレッロ港へと向かう。そこから10時半発の水中翼船で40分かけ、カプリ島のマリーナグランデへと到着した

ケーブルカーとバスに揺られて、アナカプリという小さな町へ。しかし夏のハイシーズンの為か、ものすごい人で長時間並び、また車内も蒸し風呂状態で、ぐったりと疲れてしまう

インフォメーションに行くと、安い宿はほとんど埋ってしまっていて、少し高いが、ヴィッラエヴァという町外れの小さな宿に空きがあったので、予約を入れてもらい、迎えの車で宿へと向かった

するとそこは、プール付きの緑に囲まれた、こぎれいなリゾートペンションといった感じだった。2人で15万リラ、約8000円というしっかりとした値段を取られたが、これなら納得という感じだ

とは言ってももちろん金の無い僕にとって、簡単に払える額ではない。でもグラさんが、いいよ私が出しておくからと言ってくれた。ナポリに着いてから、食事代から宿代から、ほとんどグラさんが出してくれて、日本に帰った時にごちそうしてもらうからと言ってはくれていたが、まるでヒモ状態の自分が情けない。金が無いのだからしかたないとはいえ、ちょっと自己嫌悪に陥る

この日はプールでだらだらとして、夕方夕日が綺麗だというレストランで、白ワインを片手に前菜とパスタを食べる。前菜はオリーヴオイルとニンニクに漬けた、ナスとズッキーニのオーブン焼き。パスタはトマトソースとバジルのラビオリに、ボンゴレの太麺スパゲティー。もう美味過ぎて、美味過ぎて最高!  水平線に沈んでいく、真っ赤な夕日も素晴らしく、リゾートライフを満喫する。しかしこんなにいい思いをし過ぎて、この後また極貧の1人旅に戻れるのかとちょっと不安になる。でも楽しいからまあいっか

カプリ島2日目は、朝から歩いて青の洞窟へと向かう。自然の緑に囲まれた坂道を延々と下ること1時間、洞窟の入り口へとやって来た。ここで2人で3万リラ、1人約750円支払って、小さなボートに乗って洞窟の中へ入る。すると中は驚く程、透き通 った青色をしていて、神秘的な雰囲気

船頭の歌うイタリア歌曲の名曲「ソレントに帰れ」が響く中、5分程洞窟の中をぐるっと回って外へ出てきた。その不思議なひとときは、まるで不思議の国への穴に入り込んだかのように、まるで夢を見ているような時間だった

しかしボートを降りる際になって、僕達が日本人だからなのか、僕達だけ1人2万リラのチップを請求される。でも他の人は皆2000リラしか払っていなかったので、それに習って同じ額だけチップとして渡し、ボートを降りた。これが約100円。船頭は渋い顔

午後はここからバスに乗ってアナカプリの町へ行き、そこからさらにリフトでソラーロ山へ上る。360度広がる青い空と海。なんて美しいのだろう。2人でベンチに座って、ただひたすらぼぉっと過ごす

イースター島にいた時にも感じたが、ここでこうしていると、幸せってそんなに難しくはないなって、そんな気持ちにさせられる。美しい自然と、美味しい食べ物、そして楽しい仲間や、大切な人がそこにいれば、他には何も必要ないんだなって、そう感じさせてくれる場所だ

ああ、海ってこんなに青かったんだね。そうつぶやいてまた何の言葉を交わすでもなく、また美しい景色に見とれていた

夕方、宿に戻って2時間ほどプールで過ごし、また昨日のレストランまでとぼとぼと歩いていく。今日も白ワインと前菜とパスタで至福の時を過ごす。特に前菜の生ハムと、メロンの組み合わせは絶品だった

 次の朝、11時10分の高速船でナポリに戻る。前回泊まった宿が、僕達の事を覚えていなくて、前より高い値段をふっかけてきた。当然値引き交渉をするが、頑として下げようとしないので、すぐ前にある別 の宿にチェックインする。ここは向かいの宿と同じ値段で、部屋はずっと綺麗だ。これが2人で9000リラ、約4800円

午後からローカル鉄道に乗って、郊外にあるポンペイの遺跡に行く。期限前に始まり、西暦79年の火山の大噴火で、1夜にして消えたこの文明は、驚くほどの広さで、この旅であちこちの素晴らしい遺跡を見て回ったが、規模という点ではこれが最も大きな遺跡だと思う

ローマのフォロロマーノを髣髴させる教会後や、コロッセオを1回り小さくしたような闘技場があり、ローマのものよりもこちらのほうが、古い時代のもののように見え、ここはひょっとしたら古代ローマのモデルになったのかもななどと、何の裏付けもない勝手な想像をしてみる

当時の人々の生活や動物が書かれた壁画など、他にもいろいろとありすぎて、とてもじゃないが1日で回りきれないくらいだ

ただ炎天下の中では2時間が限度で、ハイライトだけを見て帰ることに。それでももうクタクタだ

晩御飯を駅前で食べて宿に戻ったのは、もう深夜に程近い時間だった。明日、グラさんはフランクフルトへ戻って、そのまま日本に飛ぶとのこと。そして僕もまた1人旅へと戻る

しかし本当に、長い旅の中の安らかな一時だった。本当はもう少し大好きなイタリアにいたい気持ちだが、楽しかった思い出のままにしておきたいこともあり、明日は思い切ってイタリアを出ようと思う。さあ、次は情熱の国、スペインだ。

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