旅日記15 タイ編 Vol.7 「カオサンでの択」

2月14日(晴)

 

 朝起きるとサヤームからバスに乗ってカオサン通りへ出た。思い切ってカンボジアのアンコールワットに行ってみようと思い先日尋ねたカオサンの旅行代理店に行ってみようと思ったのだ。

 カオサンをぶらつき店を冷やかして歩く。値段は安いがあまり興味をそそられるものが無い。とりあえず先日行った持ちこみOKのインターネットカフェでしばらく時間をつぶした後、その足で旅行代理店に顔を出した。

 シェムリアップ行きのエアーの値段を尋ねると8450バーツという答えが返ってきた。日本円にすると約2万5千円強なのだが、先日尋ねた時は1万8千円だったので問いただしてみると、それは片道の値段なのだと言う。しまったそれでは明らかに予算オーバーだ。

バスだと往復で2700円くらいだったが、移動だけで2日つぶれてしまいシェムリアップに1日しかいられないのと、やはり安全面そして体力的にも不安があった。

 この後アフリカへ行ってから3月上旬にまたバンコクに戻ってくる予定になっているのだが、僕の持っている世界一周航空券の次のフライトがシンガポール発オーストラリア行きになっているので、バンコク発シンガポール行きのエアーチケットもついでに聞いてみた。するとビーマンバングラディッシュ航空のフライトで7000円くらいだとのこと。その次に安い別のエアラインのフライトが1万円を越えていたのでとりあえずそれだけを頼む。

 店を出てすぐ横を見てみると地球の歩き方にも乗っている日本人の経営する旅行代理店があったので中を覗いてみる。するとシェムリアップはやはり8450バーツで、この辺りのちゃんとした安全な店ならほぼ値段は同じくらいとのこと。またその8450バーツのフライトはプノンペン経由の為、トランジットに中5〜6時間は見たほうがよいので結局1日がかりの移動になるとのことだった。

 直行便はないか聞いてみるとバンコクエアウェイのフライトが9320バーツでこれなら1日4便あり、しかも1時間でシェムリアップまで飛べるとのことだった。

 少し考えてみますと言って店を出て近くのバーで昼食を取ることにした。

 中に入ると欧米人の好みそうなファーストフードとタイ料理がメニューにあった。腹の調子はほぼ完治していたが、念の為に辛くないやつを聞いてみるとチキンの甘いタイソースがかかったライスが70バーツとのこと。それとコーラを頼む。これで約270円。

 バスの移動にしようかと最後まで悩むが、随分良くなったとは言えカンボジアは先日までの内戦でまだ銃器の入手が可能で、しかも病原菌からマラリアとなんでも一通りそろった国である。この時期は雨季ではない為、それ程病気の方は神経質になる必要はないとのことだったが、やはり治安の方は石橋を叩いて渡っておきたい気持ちはあった。2万円で

大きなトラブルが防げるのなら充分検討する範囲の値段である。

 食事を終えた後、先程の日本人の経営する代理店へと向かった。カードでチケットを買おうと思ったので、それなら日本人の店が1番安全だと思ったからである。

 フライトはいつにするかと聞かれたので、とりあえず明日の一番遅い便を聞いてみる。すると午後3時バンコク発のフライトがあるとのこと。帰りも空席がどの便もあるとのことだったので、金曜日の午前11時のフライトにしてもらった。

 発券が夕方の6時半とのこと。先程のシンガポール行きチケットの発券も7時頃と言われていたので、とりあえずバスに乗って一旦サヤームまで戻ることにする。一旦宿に戻ろうかとも思ったがまだ昼の2時くらいだったのでスクンビット通りのソイ35付近の日本人街へとBTSで移動することにした。

 この辺りは在タイ日本人が多く日本人向けの店も多い為、ジャパニーズタウンと化しているあたりである。僕はカンボジアにまさか自分が行くとは思っていなかったので、とりあえずこのあたりの古本屋でせめて地図かガイドブックくらいは仕入れておこうと探しまわった。

 すると古本屋は何件かありガイドブックの類も置いてあったが、肝心のカンボジア関連のものがない。カオサンで探したときもみごとにカンボジア関連のものだけ無かった。やはりこの時期学生が休みを利用して、バンコク経由でアンコールワットに行く連中が多いので品薄になっているみたいだ。

 しかたが無いので新品をとまたBTSに乗って伊勢丹へ移動する。ここの書店に行ってみるとあるにはあったが、値段が1000バーツ、約3000円。日本円での定価がちなみに1640円。とてもじゃないが買えない。

 とりあえず必要な情報だけ立ち読みして、初日の宿でよさそうな所の住所を手帳にメモする。この時期は幸いアンコールワットは日本人が沢山いるとのことなので、あとは現地で日本人に聞くことにしてカオサンに戻ることにした。

 バスを拾おうと待つが時刻がすでに夕方の5時半過ぎだったこともあり、乗る予定のバスが来ても満員で目の前を素通りして行く。30分程待つが4台目のバスが素通りした時点でこれは駄目だとタクシーを拾うことにした。

 いつものようにメーターで走ってもらう。しばらくするとタクシーの運転手が日本語で話かけてきた。なぜ日本語が話せるのか尋ねると、以前日本で2年くらい働いていたことがあるとのこと。なるほどと納得。川崎の自動車修理工場で働いていたらしいが、話しぶりからするとどうも合法的ではないらしい。日本は給料がいいのでまた行きたいといっていたが、日本はずっと不況だから難しいかもよと言うと落胆していた。

 渋滞に少しつかまるが10分遅れぐらいでカオサンに到着する。30分程走って70バーツ、約210円。

 カオサンでチケットを受け取ると、そのままバスでサヤームへとんぼ帰りする。バスだとかなり歩かなくてはいけないが3.5バーツ、約10円。

 宿に戻ると先日の女の子2人組みが話しをしていた。いっしょに混ぜてもらう。

 昨日一緒にタイタニックを見た娘は明日の朝イチのフライトということで途中で荷物を持って出て行った。入れ替わりに先日の大学生達がやってきたが、彼達も明日の朝イチのフライトということで夜中の3時にタクシーを拾って空港に向かうとのこと。

 僕ともう1人の女の子だけがポツンと取り残されてしまった。彼女の名前はひとみさんと言い僕より1ツ年下とのこと。元看護婦をしていたとのことだったが、すでに日本を離れて1年旅をしているそうで、今日もバンコクのビザが切れる為ビザの延長手続きをしてきたという旅馴れたつわものである。

 彼女はさすがにかなりの情報通で色々興味深い話を聞いた。その中で特に印象に残っているのは何でもタイは世界でも有数の売春国で、最近死姦の店が摘発されたとのこと。内容は隣国のパキスタンなどから子供を買ってきて、1人2万円で客に売るのだとのこと。その後文字どおり殺してから性行為をしたり、逆にナニをした後で殺して川に捨てたりするのだと言っていた。人の命がこのバンコクでたったの2万円。

 政府もさすがにこれは対外的にまずいとのことで取り調べを強化しているらしいが、まだまだこういった類の店は後をたたないとのことだった。

 また別の話では在タイ日本人サラリーマンの奥様方の話である。日本から派遣されてくる人達はやはりそれなりの手当てがつき日本にいるときより良いサラリーがもらえるとのこと。しかもタイでの住宅やらお手伝いやらも会社が用意し、ご存知の通りタイと日本の物価の格差からいうと、まるで別世界に来たようなゴージャスな生活が送れるらしい。

 しばらくするとこの豪華爛漫な生活が当たり前のようになってきて、自分がものすごい身分の高い人間になったかのように錯覚をしてしまうのだとのこと。しかしサラリーマンは任期が終えれば日本に戻らなくてはならない。すると当然のごとく以前の普通の生活に逆戻りになる。しかし日本に帰ってもタイでの生活が忘れられず日本での普通の生活が耐えられなくなって、心の病になってしまう人が後を立たないのだという。

 わからなくないでもないがまったく情けない話である。

 他にも興味深い話題が取り留めなくでてくるので、どうしてそんなに詳しいのか尋ねてみると友人に出版関係やライターの仕事をしている人が多いとのこと。その中にはアジア好きなら1度は読んだことがあるというくらい有名な某S川さんの名前もあった。どうりで裏事情に詳しいわけだ。

 あとおもしろかったのが、彼女は今マッサージに凝っていてワットポーでタイ式マッサージの免許を取ったとのこと。だいたい30時間で卒業らしくその気になれば1週間で免許が取れるとのこと。外国人は授業料が高いとのことだったがそれでも6000バーツ、約1万8千円。

 実は僕も子供の頃階段から落ちた事が原因で慢性的な鞭打ち性になり、小学生の事から整体やマッサージに何件も通っているうちに興味を覚え、お世話になっている先生に毎回少しずつ整体を教わっていた。その事を話すと日本語のできる人も1人だけいるし、またこの後欧米に行けば合法的ではないが、免許を持っていれば良いアルバイトになるよとのこと。

 アフリカから帰った後まだバンコクで1週間くらいすごす予定でいたので、話のネタにもなるしとかなり大マジで習いに行こうかと考えはじめる。

 その後なぜか人生感の話になり夜中の3時くらいまでロビーで話し込む。彼女が聞き上手なこともあってか、つい今まであった自分の人生の出来事などを話してしまう。自分の苦労話をしたところでどうにかなるわけでもなかったが、ただ聞いてもらうだけでいくらか気持ちが楽になった。

 彼女はまだしばらくこの宿にいるとのことだったので、金曜日に帰ってくるのでまた話しましょうと言って部屋に戻る。いよいよ明日はカンボジアだ。いったいどんな事が待っているのだろう。

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