旅日記16 カンボジア編 「夜けのアンコール」

 

2月15日(晴のち曇)〜16日(晴)

 

 朝食を取った後ゲストハウスをチェックアウトする。金曜日に戻ってくるのでアフリカに発つ前日までの宿泊予約を一応しておく。駄目元と自分の荷物を預かってくれないか尋ねるとOKとのこと。小さなリックだけ持って行くことにして他の荷物を預かってもらう。

 身軽になったところでBTSのサヤームから一番空港寄りの駅モーチットまで移動する。

 空港への移動手段はエアポートバスかタクシーが一般的だが、エアポートバスだと乗り場まで移動するのが大変だし、タクシーでそのまま移動すると料金が200バーツ以上で時間も郊外に出るまでが結構かかると聞いたので、まず一旦BTSで郊外まで出てそこからタクシーを拾おうと思ったのである。

 30バーツで15分程かけてモーチットまで移動した後タクシーを拾う。僕が乗りこむなりタクシーは空港へむかって走り出した。

 当初こそ順調だったがすぐに僕の顔から血の気が引く。理由はこの運転手、めちゃくちゃスピード狂なのである。しかも車間距離を殆ど取らないものだから何度悲鳴をあげさせられたかしれない。しかし15分程で空港へ到着した。これで100バーツ、約300円。

 余裕を持って移動したつもりだったが、まさか宿から空港まで30分で着くとは思っていなかったので3時間どうやって潰そうか考えているうちに出国手続きを取り搭乗ゲートまで来てしまった。まだ出発まで2時間半もある。

 しかも辺りに誰も人がいなく、まともな売店すらなかったのでおもむろにノートブックを取り出し日記をつけはじめる。書き出すととまらない性格なのだが、前日までの日記を書き終えたところで搭乗開始時間になった。

 マイクロバスに乗り飛行機へと向かう。するとすぐ前の席に日本人らしき女性が2人座ったので、日本人ですかと聞いてみるとそうだとのこと。同じ飛行機に日本人がいたことに安心する。しかも飛行機の座席もすぐ隣だった。といってもこの飛行機、ジャンボではなくプロペラ機で座席数は数えるほどしかなかったが。

 飛行機が飛び立つ。めちゃくちゃ揺れて恐い。道中一応機内食も出て入国カードやビザの申請書を書いているうちに、あっという間にカンボジアのシェムリアップ空港へと到着した。1時間で移動できるなんてなんと楽なことか。まあその分値段も高いのだけれど。

 プライベート空港かと思うくらい小さな空港で入国手続きをすませる。先程の日本人女性の方々と一緒に市街地までタクシーをシェアしようということとなり、5ドルでタクシーを拾う。

 すごく綺麗な人達だなあと思っていたのだが、話してみるとお2人ともスチュワーデスで休暇を利用して遊びにきているとのこと。2人はぴよさんとグラさんといい、ぴよさんはタイ航空で働いてらっしゃってバンコク在住、グラさんはルフトハンザ航空でフランクフルトにお住まいで大学の同級生だったとのこと。

 まだお2人も今日の宿泊先を決めていないとのことだったので、タクシーで何件かホテルを回ってもらうと、しばらくしてグリーンアンコールという小奇麗なゲストハウスに到着した。

 おそらくまだ出来て間も無いだろうと思われるこのゲストハウスは、エアコン完備でホットシャワー、TV、冷蔵庫付でシングル15$、ダブルが20$だったので、僕はシングル、お2人はダブルでチェックインすることに。

 この後ぴよさんとグラさんはサンセットを見に行くとの事。先ほどの運転手も良い人でまた5$で迎えにきてくれると話がまとまったので、僕もご一緒させてもらうことにした。

 部屋に荷物を降ろし、またタクシーに乗ってサンセットポイントに向かう。カンボジアはその名前からは何やら恐ろしげな響きがあるが、シェムリアップという街自体はのどかな小さな地方都市といった趣だった。ただ観光地として開発が進んでいるのか、建設中のホテルがいくつもある。お2人はすでに世界のあちこちに行かれており、まだツーリストが少なかった頃のベトナムみたいだと話していた。ここも後何年かするともっと大きな街になるのかもしれない。

 サンセットポイントも遺跡になっており、急な崖を攀じ登って上まで辿り着く。物売りの子供達が沢山いたが、いらないと言い続けるとしばらくして離れていった。しかし子供達の日本語のうまいこと、下手な通訳よりよっぽど発音も良く、ちゃんとこちらの話す内容も理解しているようだった。この後も何処へいっても子供達には付きまとわれたが、日本語だけでなく、英語、フランス語とマルチリンガルぶりを発揮していた。

 肝心の日没はこの日西の空に雲が多く残念ながら殆ど見られなかった。ただ延々と続く地平線に少し感動する。この地平線に太陽が沈んで行くのかと思うと明日もう一度来てみたくなった。

 タクシーに乗ってきた道を引き返す。運転手が明日1日20$で貸し切りOKだという。お2人が明日ももしよかったらと言ってくれたので、ご好意に甘えることにする。お2人は英語はもちろんバリバリで、ぴよさんはタイ語、グラさんはドイツ語が話せる。しかも美人とくればもう言うことはない。めちゃくちゃ俺はついてるなと思いながら、美人のお姉様に連れられた弟というのが1番しっくりくる図式をこの後も展開することになった。

 この日は街に戻ってバーでビールを飲み、一緒に中華の夕食を取る。こちらの地ビールが何種類かあったが、さっぱりしたアンコールビールと言うのが1番美味かった。

 ホテルに戻りシャワーを浴びて寝る。部屋に蚊はいなかったが、念の為に蚊取り線香も炊くことにした。エアコンが効いていてぐっすり眠れそうだ。

 

 翌朝5時に目覚まし時計が鳴る。今日は日の出のアンコールワットを見るため5時半にロビー集合になっている。シャワーを浴びて眠い目をこすりながらタクシーに乗りこむ。まだ空は真っ暗だ。

 アンコールワットの入場料は意外に高く1日フリーパスが20$、約2000円。カンボジアの通貨はリエルだが、シェムリアップでは殆どのところが外国人はUS$で支払いができるので、両替は必要がないと言ってもいいくらいだ。ちなみに1$が3800〜4000リエル。

 懐中電灯が欲しいくらいの暗さだったが、他にも観光客らしき人が沢山いたので後について先へ進む。中門をくぐったところで場所を取り日の出を待つ。だんだん空が白くなってきた。幻想的な雰囲気が漂い静寂の中で虫の音が響きわたる。ただ時折日本人の年配の団体客がゲラゲラと笑い声をあげるのには少し閉口したが。








 結局1時間程待って夜が明けた。特にアンコールワットから太陽が少しずつ昇ってきてすぐ前にある池にアンコールと太陽が写った情景は、なんともいえない美しさがあった。これだけでカンボジアに来てよかったと思う。

 その後外側の回廊のレリーフだけ見て朝食にする。ここにも物売りの子供達が、笛を買えナニを買えとうるさかったが、相手にしないとそのまま他のテーブルへ移って同じことをしていた。ただ子供達以上にうざったいのがハエの大群。当初は神経質に過敏な反応をしていたが、そのうち馴れたというか切りがないとあきらめるようになった。それぐらいここはハエが多い。


 朝食の後、またアンコールワットに戻り中を見て回る。しばらく進むと上にあがれる階段があったので、アンコールの一番高い所まで登ってみる。

アンコール・ワットに登って塔のアップを撮る

 デンジャーと注意書きがあったが、上に人らしき姿が見えたので登ってみたのだが、階段の幅がものすごく狭い上にめちゃくちゃ高い。僕はあまり高いところが得意ではないので、もちろんアンコールの塔からの眺めは感動したが、降りるときの恐怖から考えるともう二度と上るものかというのが正直の感想である。

 お姉様方は高いところが平気らしく先にどんどん下りていったが、1人だけおそるおそるゆっくりと降りていく自分。カッコ悪い。でもこんな所で落ちて死ぬわけにはいかんのだ。おちたら間違いなくあの世行きの高さなのだから。











 

アンコールワットを一通り見た後、そのままタクシーでアンコールトムへ移動する。ここは多くの遺跡群が集中していて1つの街を形成していただろうと思われる遺跡都市なのだが、中でも四方向に人面の柱が連なって1つの建物を形成しているバイヨンは、まるでインディージョンズか何かの映画の世界に迷い込んだかのような錯覚を引き起こす。

 その後も小さな遺跡を見て回るが、1時半をまわったところで暑さに体がもたなくなりシェムリアップの街へと引き返して昼食にすることにした。



 ここで初めてカンボジア料理を食べたのだが、どうもカンボジア料理というのは辛いでもなく甘いでもないボヤっとした輪郭のハッキリしない味である。ただ入った店が外国人向けの高級店だったので、それなりに美味しく食べることはできたが、お値段もそれなりに観光客値段だった。1人だったらまずこんな店には入れない。

 ホテルに戻ってしばらく昼寝をする。1時間半程眠った後またタクシーで昨日行ったサンセットポイントに向かう。この日は天気がよかったので地平線へと落ちて行く綺麗な夕日を見ることができた。またここには象がいたので値段を聞いてみる。上り15$、下り10$の表示がでていたので、下りで3人で10$なら乗ってみようと3人のっても大丈夫か聞いてみたのだが、値段は1人あたり10$とのこと。それは高すぎるとあきらめる。グリさんがタイのチェンマイで、象に乗ってジャングルを移動するのがいいよと進めてくれた。チェンマイも悪くないなと思う。

 この後お2人は大きなホテルでの現地のダンサーのディナーショーに行くとのこと。ご一緒したかったが、1人25$では手が出ない。しかたなく僕は別行動をとることになり一旦ホテルに戻ることにした。

 夕食は屋台にしようと街をぶらついていると、現地人向けのカレー屋があった。外国人ようの英語のメニューが出され、おそらく観光客値段で高くなっているとは思われたが、それでもチキンカレーが1.5$。同じ値段でビーフカレーがあったので、たまにはこちらにしてみようとビーフカレーとコーラを頼む。これで併せて2$、約200円。

 味はやはりカンボジアらしく辛くもなく、何ともいえないボヤけた味。けして美味いものではない。しかも肉は牛は牛でも水牛の肉、いわゆるバフというやつだったので、パサパサしていて匂いもきつかった。同じ東南アジアならタイやベトナムの方が料理は美味しいと思う。

 部屋に戻って日記をつける。本当なら明後日の帰国予定だったが、アンコールは入場料が高いのと、今日あらかたハイライトは見てしまい、しかもお姉様方が明日プノンペンへ発ってしまうので、1人では移動も大変ということで急遽明日の便に変更する。午後便を探すが一杯とのこと。しかたなく午前11時の便にした。

 明日の朝、マーケットと朝食をご一緒して僕は一足先に空港に向かうことになっている。地図すら持たずにきてしまったカンボジアであったが、思いがけない出会いで楽しい旅を過ごすことができた。しかも美人のスチュワーデスさん2人と一緒である。

 ピヨさんは行動派で面倒見のよい姉御肌でぐいぐいと引っ張ってくれてとても助かった。僕などまったく出る幕無しでただひたすら後ろをついて歩くだけである。

 グリさんはコメットさんの大場久美子に似ていて、高校時代に僕の一目ぼれで付き合った彼女とも雰囲気が似ている。結構僕の好みのタイプだったりする。

 この2泊3日の小旅行が楽しかっただけに、別れるのが名残惜しい。僕がこの後の旅程のクライマックスで、列車でユーラシア大陸横断を計画しており、道中でドイツのフランクフルトに寄る予定になっていることを話すと、グリさんはもしうまく日程があえばまた会いましょうといってくれた。そうなればいいなと心から思う。

 別れは寂しいがこんな出会いがあるから旅は楽しい。きっと僕はアンコールワットの風景を思い浮かべる度、ピヨさんグリさんとすごした日々を思い出すのだろう。

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