旅日記17 タイ編 Vol.8 「白銀の浜への誘い」

 

2月19日(晴)〜21日(晴)

 

 カンボジアでピヨさん、グラさんと別れた後来た道をなぞるようにバンコクへ戻る。その後数日は、洗濯をしたり日用品を買い足したりと特に何をするわけでもなくだらだらと過ごしていた。

 出来事と言えば19日の土曜日に、この後アフリカに向かう予定なのでマラリアの予防薬を飲み始めたことくらい。シンガポールの病院でもらった薬だったが、副作用があるので数日悩んだあげくの選択だった。

 そういえばカンボジアでの最終日にピヨさん達に20日からタイのビーチに行くのでもしよかったら一緒に来ないか?と誘われていた。ただ21日の深夜に僕はアフリカ行きの飛行機に乗らなければいけなかったので、正直少し難しいかなとも思っていた。

 ただこの日、ピヨさん達がカンボジアのプノンペンから戻ってくると聞いていたので、先日のお礼も兼ねて、とりあえず貰った名刺に書かれた電話番号を回す。

 するとすぐに元気なピヨさんの声が飛び込んできた。先日のお礼を言った後ビーチの事を切り出そうとするとピヨさんから、明日の朝出発だけど大丈夫だよね?と先手を打たれてしまう。

 どうしようか迷うが、ピヨさんグラさんに会いたい気持ちが勝りOKの返事をしてしまった。少し強行日程だが何とかなるかなと手帳にスケジュールを書きこむ。

 

 翌朝5時に起きて荷物をまとめ、主だった荷物を宿に預ける。ただこの後そのままアフリカに向かわなければならなかったので、寝袋なども一緒に持って7時過ぎに宿を出た。BTSに乗って待ち合わせのエカマイ駅に向かう。

 駅について目の前のバスターミナルへ向かって歩いていると、僕の姿を見つけたピヨさん達が手を振って出迎えてくれた。

 屋台で朝粥を食べた後、バスに乗り込み目的地サメット島に向かう。バンコクの大都会から車窓は少しずつ簡素な田舎の風景へと変化して行き、3時間半程揺られた後小さな港街のバス停へと到着した。

 ここから船で島へ渡るのだがまだ少し時間がある。グラさんが突然、イカ焼きが食べたいと言って買ってきた。一緒に食べよう!とニコニコと嬉しそうにビニール袋に入ったイカ焼きを差し出す。何だか僕まで楽しい気分になる。

 3人でいそいそと細長い楊枝でイカをつつきながら船が出るのを待つ。しばらくすると小さなオンボロ船はけたたましいエンジン音を立てサメット島に向かって動き出した。

 

 港付近では深緑に濁っていた海も、30分程移動し島の船着場に着く頃には太陽に照らされすっかりエメラルドグリーンに輝いていた。

 サメット島に着いた後、僕達はピックアップの車の荷台に乗合してビーチへと向かう。ガタガタとバンピーなデコボコ道で何度も車はジャンプしながら、10分ちょっと走って今回滞在するアオパイビーチへと到着した。

 この島はタイの国立公園になっていて、プーケットやサメット島と違いリゾート化されていない。その為か外国人観光客は殆ど見かけず、タイ人の占める割合が圧倒的に多いとのこと。ただその中でここアオパイは、タイ在住外国人が集まる外人ビーチになっているとピヨさんが話してくれた。

 確かにビーチを見渡すと圧倒的に白人が多い。僕達はビーチサイドのバンガローに泊まる予定だったが、あいにくこの日はタイの祝日を含む週末3連休の中日だった為どこも一杯だった。

 それでも野宿するわけにはいかないので、あちこちと探しまわってようやく一軒のローカルなバンガローにチェックインする。もっとも探しまわったと行っても実際探してくれたのはピヨさんグラさんで、僕は荷物番だったのだけれど。

 

 着替えてビーチに出ると太陽に照らされた海は透き通ったエメラルドグリーンに光り輝き、きめの細かい白銀の砂浜は踏むと音をたてそうでまさに楽園と言うに相応しかった。

 昼食を取った後ひと泳ぎしてしばらく木陰で休む。またしばらくして泳ぎ横になる。そんな穏やかな時間を過ごした後、いつしか太陽は西の空へと沈んで夜になった。

 ピヨさんグラさんと一緒にビーチサイドのレストラン、それも何歩か歩くとそのまま海につかってしまいそうな砂浜の中のテーブルで、ビールとタイ料理に舌鼓を打ちながら世間話をする。するとしばらくして何やら現地の兄ちゃん達が両端に布を巻きつけた木の棒に灯油をしめらせ、火をつけるなりファイヤーダンスをはじめた。

 最初に現れた兄ちゃん達は、ショーなのか練習なのかわからないくらいヘタクソだったが、後から登場した小柄の引き締まった体つきの若者は、思わず拍手したくなるくらい素晴らしい技を披露してくれた。

 ピヨさんの話によるとこのファイヤーダンスはここの名物で、彼達は毎晩ある時間になるとこれをはじめるとのこと。ふと横を見ると少し離れたビーチでも、おそらく踊っているだろうと思われる小さな明りが2つ回っていた。

 ただショーというには特にプログラムも無く、お金も取らないので正確にはファイヤーダンスパフォーマンスというのがより的確な表現なのかもしれない。

 

 海が引き潮になり、昼間泳いでいた辺りもすかっり砂浜になっていたので、僕達はビーチサイドを歩いて散歩することにした。しばらく行くと鎧を着た兵士と人魚の像があったが、なぜこんなところにこんなものがといった感の否めない不自然なものだった。

 それでもこの像は一応サメット島のシンボル?らしいとのこと。

  この後バンガローに戻って蚊取り線香をたき早めの就寝。一応エアコンがついていたが殆どいらないくらい涼しかった。

 

 翌朝また3人揃ってビーチサイドで朝食を取る。この時僕はチーズ入りのオムレツを頼んだが、食べてみると中にチーズが入っていない。そのことをウエイターに告げると皿を一旦下げたので、てっきりかえてくれるのだろうと思っていると、ただ先ほどオムレツの上にスライスチーズを1枚乗せただけでそのままテーブルの上にドンと置く。

 いくらなんでもこれはあんまりだと思わないでもなかったが、ここの人達はハッキリ言って仕事のやる気も無く、オーダーしてもなかなか取りにこないし、他の客もしかたなく自分でメニューを取りに行く程いつのまにかセルフサービス状態だった。まあここはタイだしなと思い諦める。

 朝食後、着替えて海へ出るとこの日は3連休の最終日だったせいか、昨日とうって変わって人も少なく快適だった。

 海沿いの店でビーチボールを買ってグラさんと一緒に遊ぶ。ただ風があるので思うようにいかない。しばらくしてピヨさんも参戦し、ボールで遊んだり海に浮いたりしながらのんびりと過ごす。

 正午になって昨夜のバンガローをチェックアウトする。ピヨさん達も今日は当初泊まるはずだったバンガローに移動した。

 その後もビーチでダラダラと過ごした後、少し遅めの昼食を取る。パッタイという米から作ったタイ風の焼きそばとスイカのシェークを頼むがむちゃくちゃ美味かった。

 

 現地の人は少しいい加減だが、食べ物は美味いし綺麗な海もあり物価も安い。やはりタイは最高だなとこのサメットに来て心からそう思った。

 昼食を済ませた後ピヨさん達の部屋のシャワーをお借りする。昨日と違いこのバンガローなら観光客でも文句無しというくらい綺麗だ。

 砂のついたビーチサンダルで歩いてしまったので部屋が少し汚れてしまった。いそいそとトイレットペーパーを片手に掃除する。

 荷物を持ってビーチに戻りこのまま僕はバンコクへ戻る旨を伝える。サメット島の思い出にと3人揃って写真を取ってもらいピックアップの車乗り場へと向かった。ピヨさんグラさんも見送りについてきてくれる。

 他の客も乗らないかしばらく待つがどうやら僕1人のようだ。1人だと少し料金が高くなるが船に乗り遅れてしまうので、しかたなくこのまま車を出してもらうことにする。

 手を振る2人に向かって、トラックの荷台から大きく手を振って返す。しばらくするとピヨさんグラさんの姿が、遠く小さく、そして消えていった。

 

 その後船に乗りバスに乗って来た道を戻りバンコクへと向かう。サメット島での日々が楽しかったからだろうか、それともピヨさんやグラさんが優しかったからなのかはわからないが、1人になると無性にやるせない寂しさのようなものがこみ上げてくる。

 またきっと会えるさと、涙が零れ落ちそうになるのを僕は上を向いてこらえた。

 その後バスからBTS、タクシーと乗り継いで空港に到着する。様々な思いが入り混じり僕の中を一瞬駆けぬけて行ったが、ヨシッ行こうと!小さく掛け声を上げバックを背負い直して、僕は空港のロビーをゲートへ向かって歩き出した。

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