旅日記22  タンザニア編 Vol.1  「星降るザンジバル」

 

227日(晴)

 

 朝9時にホテルをチェックアウトし空港に向かった。僕を乗せた飛行機は海沿いの町モンバサを経由して2時間かけタンザニアのザンジバル島に到着する。

 とりあえず帰りのフライトのリコンファームをしようと、空港のケニア航空のカウンターに向かうが誰もいない。隣のタンザニア航空の社員がいたので聞くと今日のフライトは一杯だと馬鹿の1つ覚えのように繰り返す。そうじゃなくてケニア航空のリコンファームがしたいんだと言うと、ケニア航空のことなんか知るもんかと言わんばかりに不機嫌な顔をして、そのうち来るだろうから待ってろと吐き捨て奥に入ってしまった。

 僕と白人数人はそのままカウンターで待つ。30分以上待ってやっとケニア航空の人間がやってきた。が、その回答はここではできない、タウンのオフィスでやってくれとのこと。ここで出来ると聞いてきたんだと話すが、できないものはできないとあっちへ行けといった仕草をする。すごい扱いをされたものだ。

 しかたなくタクシーを拾って今日泊まる予定のパジェという東海岸のビーチまで乗せて行ってもらおうと値段交渉をする。事前に得た情報では1520US$が相場とのことだったが、ドライバーは50$だと言う。これはボッてるなと思い、そんなはずは無いそこに住んでいる友人から聞いたんだというと30$まで下がった。しかしそれ以上は下げる気配が無い。これは埒があかないと思い、他のドライバーと交渉を続ける。すると今度も30$で止まる。いくら1時間程かかるとはいえ、ここの物価からすると高すぎるはずだ。しかし他にタクシーはおらず、すでに炎天下の中空港についてから1時間以上が経過していた。ドライバーが28まで値を下げたが、これで駄目なら途中まで歩いてタクシーを探すつもりで25なら乗る、それ以上ならいらないと言うとしばらく考えるそぶりをみせOKという返事が返ってきた。

 タクシーは僕を乗せ軽快に飛ばす。15分くらい走っただろうか、いきなり車がスローダウンを始めとうとう止まってしまった。運転手が車を降りてボンネットを開け何やらエンジン部分を見ている。

 初めからボロイ車だなあと思ってはいたが、車の状態を見てみると結構酷い。車内のあちこちの部品は壊れ、窓も半分しか閉まらない。フロントガラスもヒビが入っていてとてもタクシーとは思えない仕様なのだが、それでも屋根にはタクシーの看板がついている。ここではこれが当たり前なのだろうか。

 10分程して車のエンジンがかかった。先程までのトラブルが嘘のようにまた快調に車は走りつづける。しばらくすると後ろから車が1台追い越して行った。しかし何を思ったのかこのタクシーの運転手、怒って負けじまいとスピードを上げさらに被せるようにその車を追い越す。しばらくしてチキンレースが始まった。

 いくら田舎の1本道とはいえ、片側1車線の車が2台すれ違うのが精一杯の道幅である。相変わらずアフリカの車らしくスピードメーターは0を指したままビクとも動かないが、チンコンチンコン鳴っているところを見ると時速100キロは越えている様子。

 お願いだから安全に走ってくれと頼むが、大丈夫と言って聞かない。頼むから止めてくれと強く言うと、何だ根性無しだなあと言わんばかりため息を深くついて、車はやっとスピードを落とした。

 相手の車がどんどんと小さくなって行く。

 

 さらに10分程走ると道は一応舗装されていた道から、完全にガタガタ道に変わった。さすがにこれにはドライバーもゆっくり走るしかなさそうだ。

 それからまた30分程走っただろうか、車は今日泊まるパジェのパラダイスビーチバンガローズに到着した。

 中に入るとアフリカンが出迎えてくれる。あれ、ここは日本人女性が経営するバンガローじゃなかったかなと思っていると、奥からいらっしゃいませという声がしてオーナーの沙織さんが顔を出す。

 こんな日本ではあまり馴染みの無い所に、たった1人でバンガローを経営しているなんてどんな人だろうと来る前までいろいろ想像をめぐらせていたが、穏やかで感じのいいお母さんといったイメージを受けた。

 早速部屋を見せてもらいチェックインする。

 部屋に荷物を降ろし蚊帳をチェック、そして恒例の穴塞ぎ。部屋は電気も無く、トイレも水洗では無い。窓の網戸も破れていてとても快適とは言いがたい。が、目の前の砂浜と海はものすごく綺麗だし、ここの人は親切で温かそうな雰囲気、料理もザンジバル1美味しいと評判で、とりあえず2泊して様子を見てみることにする。

 バンガローの外に出てみると、一足早くチェックインした日本人の学生バックパッカーがいたので声をかける。彼の名前は宇都宮君といいこの春大学を卒業とのこと。いままでもあちこち旅をしているとかで、今回はアフリカのエジプト、ケニア、タンザニア、ジンバブエを旅する予定と言っていた。僕も同じようなところに行く予定だったので、話に花が咲く。

 彼が海でシュノーケリングをするというのでご一緒させてもらうが、すでに夕暮れ時で波が高くなかなか前に進まない。

 日も殆ど落ちてきていたので僕だけ途中で引き返すことにした。

 

 夕食の時間になった。この日は他にアフリカ文化の研究をしているという女子大生の2人組みが泊まっていた。沙織さんが気をきかせてくれたのか、日本人全員同じテーブルで夕食をとることになった。もちろん沙織さんも一緒である。

 料理は評判に違わず絶品だった。飲み物にタマリンドジュースというものがあり、こちらのローカルなフレッシュジュースで体にいいとのことだったが、何とも言えない不思議な味がした。その後色々と世間話をしているうちにすっかり夜も更けて行く。

 女子大生の「ここは星空が綺麗なんですよね」という言葉がきっかけとなり、皆でぞろぞろと食堂から外に出て星空鑑賞会となる。しかし本当に零れ落ちてきそうなくらい、大きく無数の星が夜空にちりばめられていた。

 ここでは北斗七星はもちろんのこと、天の川も本当に川というのが頷ける程帯をなしており、また僕はこの時生まれて初めて南十字星というものを見ることができた。

 沙織さんは見なれているのかすぐに引っ込んでしまったが、僕達4人はしばらくボーっと星空を見上げていた。

 手をのばせば届きそうな、そして何かの拍子に不意に零れ落ちてきそうな夜空の星達。この星空を見に来るだけでも価値があるなと思った。

 30分程皆で星を見ていたが、さすがに首が痛くなってきたので部屋に戻って寝ることにする。ここは東向きのビーチなので明日は早起きして日の出を見ることにしよう。

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