旅日記31  オーストラリア編 Vol.1
「美しき大会、シドニー」

 

41日(雨)〜2日(雨)〜3日(晴)〜4日(雨)

 

 オーストラリアに旅立つ前のシンガポールも雨だった。とりわけ行く所も無かったのでギターの弦を買ったりデパートをぶらついたりして時間を潰し、夜8時発の便で6時間かけてオーストラリア最初の都市、シドニーへと移動した。

 ここは日本と時差が+1時間、シンガポールが−1時間だったので計2時間の時差があることになる。

 

 シドニー空港を出るとやはりこちらも雨だった。まだ時計は現地時間で朝5時を過ぎたばかりだったが、空港からエアポートバスがあったのでそれに乗り込む。

 特に何処へ行くという予定も無かったが、とりあえず街の中心へとシドニーのセントラル駅へと向かった。

 

 駅へ着き、重い荷物を背負って駅前のユースホステルへと向かう。

 前日為替レートを確かめると、いつの間にか円高が進み1時期1US$106円代後半まで落ち込んでいたのが、また103円代に回復し、したがってオーストラリアドルに対しても円は強くなっており、前日終値が1オーストラリアドル60円強だった。前年のガイドブックが1$約80円だったので当時と比べて20円近くも円高ということになる。

 それでもオーストラリア、特にシドニーは物価が高いらしいので今日からドミトリー(相部屋)に泊まろうと、駅前の大きなユースホステルに入った。

 

 しかし部屋の空きを聞くと今日はいっぱいでおそらく無理だろうとのこと。せっかく重い荷物を雨の中担いできたのにと、がっくりと肩を落とし他のユースへとまた10分程歩いて尋ねてみる。するとそこは1泊25$、約1500円の4人部屋なら空いているとのこと。ただチェックインが11時だがそれでもいいかと聞いてきた。

 前日の飛行機で殆ど眠れなかったのもあって、すぐにもベットに入りたかったが、もうこれ以上歩けなかったのでとりあえずOKしチェックインの手続きを始める。

 時計を見るとまだ7時だったので、とりあえず朝食を済ませる為荷物を預けようとすると、それはできないと言う。

 金も払って11時にチェックインするのだから、それまで荷物を見ていてくれてもいいじゃないかと言うと、うちでは責任を持てないので断るときっぱりと言われてしまった。

 あまりにもおざなりな対応だったので、じゃあいいですと言って泊まるのをよして出てきてしまう。

 

 しかし出てきたはいいが他にあてがある訳でも無く、雨はさらに強くなるいっぽうで傘も無く背中と両手には荷物を抱えたままただひた歩く。よわったなと困りてる。

 とりあえず値段の安そうなところと探し歩くが、自分には手が出ない値段だったり空室がなかったりとなかなか見つからない。さらに30分以上歩き雨もかなり強くなりもう限界という時に1件の小奇麗なビジネスホテルがあった。きっと高いだろうなと思いつつも駄目元でと雨宿りがてら入ってみる。

 

 するとドミトリーは無くシングルで80$、約4800円とのこと。僕の予算は1日上限で2000円だったので、あきらめて出ようとするとレセプションの中国人のおじさんがちょっと待ってと呼びとめる。

 僕には高すぎるので結構ですと言うが、叔父さんいわく、このホテルは実は明日オープンなのだが見切り発進で今日から始めたとのこと。それでまだTVやら冷蔵庫、電話といった内装品は無いが、綺麗なベットとエアコン、ホットシャワーがついて1日60$でどうかと言う。

 それでも僕には高かったので断ると、じゃあ3日泊まるなら1日50$でいいと言う。

 せめて40$にならないものかと、1週間ではいくらですかと聞くが、明後日には内装も整うので、3日以上は1日50$それがギリギリとのことだった。

 

 50$といえば13000円。かなり迷ったが外は土砂降りの雨、もう疲れて歩けないこともあって、じゃあそれでお願いしますと気の迷いからか、いつのまにか気付くとそう返事をしチェックインの手続きをしていた。

 予定の倍の予算になってしまった事に、いささか後悔しながらも部屋に入って荷物を降ろす。するとそこはまだ新築の臭いがする立派なダブルベットの部屋だった。

 すぐエアコンとお湯をチェックするが、問題無いというレベルでは無く、かなり上等のものだった。これなら相場から言って通常167000円はするだろう。これで3000円ならむしろ安すぎるくらいだ。

 3フロア、部屋数が100を越す近代的なビジネスホテルに客は僕1人。可笑しな状況になったなと思いつつ、とりあえず目覚し時計を昼過ぎにセットしベットに潜り込んだ。

 

 目を覚ますと窓の外はいくらか小降りになったもののまだ雨が降り続いている。それでもせっかくだからとシャワーを浴びて街へ繰り出した。

 大通りを1時間程歩く。歩きながらどこへ行こうかと考えているうちにシドニー水族餡の近くまでやってきた。雨も降っているしと入ることにする。

 日曜日ということもあってか、中は家族連れやらカップルやらが多かった。

 すこし場違いな気がしないでもなかったが、観光客もちらほら見かけたのでそのまま先へ進む。

 すると1年を通し温暖な気候を持つ国だけあって、色とりどりのカラフルな魚が出迎えてくれる。しかし僕が最初に気に入ったのはペンギンのコーナーだった。

 ガラス1枚隔てて愛らしいペンギンたちが泳いだりよちよち歩いたりしている。

 アザラシも愛嬌たっぷりでよかったが、僕は少しとぼけたペンギンの方がどちらかというと好きだ。

 

 さらにしばらく行くと通路は下りになり、海底トンネルへと出た。そしてこれがすごかった。ウミガメやらサメ、エイといった自分が乗れそうな程の大きな魚が、頭の上を泳いで行く。またグレートバリアリーフをモチーフにした海底トンネルでは頭上だけでなく足元にも美しい魚達の世界が広がり、まるで自分が海底の中にいるような錯覚に陥る。

 

 どれくらいの時間が発っただろうか。僕はすっかりこの竜宮城のような世界に魅了されそこに立ち尽くしていた。

 当初オーストラリアは物価が高いのでさっさと出ようと、シドニーとエアーズロックだけの予定だった。しかしこれを見ずに通り過ごしていいものかとそんな気持ちになり、どうしてもグレートバリアリーフに行きたくなってしまった。

 せっかくシンガポールで予算を削ったばかりなのに、お金のかかる所に行きたく無いというのが本音だ。後でゆっくり考えようととりあえず水族館を出る。

 

 外に出ると雨は止んでいた。さらに街を歩くと港へと出た。

 ロックスと呼ばれるこの地域には有名なハーバーブリッジがある。これがそうなのかとしばらくながめた後、時計も6時を回っていたので来た道を引き返すことにする。

 するとロックスのとあるバーから、なかなか良質なサウンドが聞こえてきた。引き込まれるようにして中に入ると3人組みのバンドがLIVEをしているところだった。

 しばらく耳を傾けていたが、なかなかよかったのでビールを1杯頼んで聞いて行くことにした。ビールが約4$、約20円。

 

 バンドの編成はエレキギター、アコースティックギター、パーカッションのトリオで、少し代わったところは3人が皆交代でリードボーカルをとっていたことだった。

 しかもバンドのサウンド、歌共にかなりのレベルである。アマチュアとも思えなかったが、かといって有名なバンドという感じでもなかったので、スタジオミュージシャンが組んだバンドなのかなと勝手な憶測をする。

 サウンド自体はアメリカの西海岸系ロックをベースに、ファンクとソウルを足したようなオリジナルの曲を演っていた。ただ面白かったのが、アコースティックギターが、ベースラインを担当していたことだった。

 ベースなんていないのにと思って注意してみていると、楽器こそアコギだがプレイ自体はべーシストのそれである。またパーカッションもコンガ2つにスネア、小さなクラッシュシンバルをブラシや手で叩いていたが、そのスタイルから想像もつかないパワフルなサウンドで、俺はロックドラマーだぜイェーイと音を通して主張しているようだった。

 

 1時間程堪能した後、店を出て最寄にあったサーキュラキー駅からキングスクロスへと移動する。

 ここは南半球最大の歓楽街らしいのだが、確かに時折いかがわしげな店が並んでいるがそれよりもお土産屋やレストランの方が目についた。こんなところまで来てと思ったが金の無い僕は、結局マクドナルドでハンバーガーを食べただけで帰ってきてしまった。

 

 翌日アメリカンエアラインのオフィスを尋ねる。

 昨夜シドニーからケアンズまで、東海岸沿いにオーストラリアを縦断する列車のパスが1万円ちょっとだということを調べたのだが、このパスは同区間で無制限で途中下車できても、一方向のみという制限がついていた。その為往復で買うと高くついてしまう。

 そこで次にエアーズロックに向かうフライトをシドニーからではなく、ケアンズからに変更できないか聞いてみた。

 すると変更手数料のみで追加料金もかからず可能とのこと。こちらの方が肉体的にも料金的にもずっと楽なので変更してもらうことにする。

 

 手続きをすませた後、昨日偶然街をぶらついているときに見つけた旅行鞄を扱う店へと向かう。ここで約2000円のキャスターを購入した。

 旅をしているうちにいつの間にか荷物が増え、僕のメインバックは20kg近くもの重さになっていた。それにサブバックと、先日購入してフルサイズになったアコギがある。これで長時間歩くのは事実上不可能だった。しかもこの後はどこかへ荷物を預けて旅するというスタイルはできない。

 以前韓国で5大陸を歩いての縦横断に挑戦している上原さんが、荷物が重いのでキャスターにのせているという話を聞いていた。ただ僕は飛行機に乗るとき荷物を持って乗りたいのでとバックパックを担ぐスタイルにしていたのだが、すでに今では殆ど重すぎて担ぐ事すらままならず、結局メインバックは機内に持ち込まず預けてしまっていたので、それならばと購入に踏み切ったのだった。

 これがあれば疲れて高いホテルで妥協したり、タクシーにのったりしなくて済むと自分に都合の良い言い訳をして、1泊分の宿代の予算差し出す。

 それからこの日はユースの会員の手続きと、お金を下ろして駅でイーストコートディスカバリーパスというチケットを購入した。

 口座の残高を見るとだいぶ心もとなくなってきている。まだ当分はなんとかなるが、アメリカあたりで労働しないといけなさそうだ。

 パートナーが見つかればヒッチハイクとも思っていたが、ここは日本とさしてかわらぬ物価でたとえヒッチハイクで移動日を削ったとしても、その分長く滞在する事でその何倍ものお金がかかる。野宿でもすれば別なのだろうが、列車で少なくとも3日分は宿代が浮くので、その事を考えれば一人なら列車パスを買ってさっさと移動した方が安くつく。やはり移動型の旅ではどのみちひたすら浪費するしかないらしい。

 

 さらに翌日はまた雨だった。

 晴れたら動物園でも行こうかと思っていたがあてが外れる。だがよく考えてみると今年シドニーはあと半年もするとオリンピックが開催される。じゃあ1足先に見てこようとオリンピックパークというところへ列車で向かった。

 ここはオリンピックの開催されるスタジアムやら選手村といった施設が集まっているところで、市内から少し離れた郊外にあった。

 

 駅に着き少し歩くとメインスタジアムが見えてきた。さすがに大きくて立派だ。

 ここは注目のスポットになっているのか、観光客はもちろんの事、地元の人達や子供連れの団体客がおおぜいいる。

 20$と少し高かったが、中が見られるというので入ってみることにする。するとこれはスタジアム内見学ツアーだったらしく、いくつかのグループに別れて団体行動を余儀なくされた。

 僕のグループは日本人どころか、アジア人は僕1人。チャイニーズすらいない。

 係員が英語でガイドしながら内部をあちこち見て回る。イメージとしては東京ドーム見学ツアーの従兄弟のようなものだったが、それでもVIPルームやメディアの放送ブース、選手のロッカールームと通常では見られない場所に入れたので、それなりに楽しめた。

 ただ馴れない団体行動を1時間以上もしたせいか疲れきってしまい、他にも野球場やテニスコートやら施設があったにもかかわらず、メインスタジアムを見ただけで市内へと戻ってきてしまった。

 

 オリンピックパークでは雨が降っていたが、市内までくると雨は止んでいた。とりあえず腹ごしらえとフィッシュアンドチップスとコーラ―を駅前の店でテイクアウトする。これで7$約450円。

 通りがかった銀行の為替レートで、今日になって急に円安でレートが悪くなっており、何だろうと不思議に思っていたのだが、ネットカフェでニュースを見て納得。小渕首相が緊急入院とある。これが原因で円が売りの方向になったのだなと呟きながら、日本にいた頃では考えられない思考モードの習慣がついている自分に気付く。

 

 この日はこの後ハイドパークをぶらついて、ミセスマッコリーポイントというところまで散歩した。往復で2時間程のんびりと緑の中を散歩する。

 ここから見るハーバーブリッジとオペラハウスが、1番美しいとかで行ってみたのだが確かに眺めはよかった。だがそれ以上に良かったのが港沿いに続く遊歩道で、まわりが豊な緑で囲まれているので、そこを歩いているだけで穏やかな気持ちになれた。

 

 日本並みの物価と行き交う人々に、何処へ行っても都会という奴はと少しうんざりしていたのだが、こんな所を歩いているとやはりシドニーは美しい街なのだなと、さりげないオーストラリアの魅力の1つに触れたような気がする。

 歩いて再びハイドパークへ戻ってくると、夜も近づいたせいかライトアップされていた。そのライトの並木道を歩いて大通りへと向かう。

 それからコンビニで水だけ買って帰ろうと1.5リットルの安そうな銘柄を選ぶが、それでも約4$、240円。バンコクだったら50円もしないのにとまた無意味な比較をしてしまう。

 

 宿に戻るとTVが部屋に入っていた。しばらくニュースを見るが特に面白いものもなかったので、明日以降の予定を立てて寝ることにする。どうも旅に出てからというものTVを見るという習慣が無くなってしまったようだ。もっともサッカーだけは別なのだが。

 

 明日からいよいよシドニーを離れ、東海岸沿いにオーストラリア大陸を北上することになる。目指すはグレートバリアリーフの待つケアンズだ。

 

 

 

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