旅日記43  カナダ編vol.2
「トロントでカレーをろう(笑)」

 5月21日〜25日

 ナイアガラフォールズのユースで一緒だったワカコさんとトロントに着いたのは夜の7時半過ぎだった。ナイアガラからはカナダ国鉄VIAで2時間、あっという間である。駅にはワカコさんの友達が迎えにきていた。大通りまで出て僕はユースに向かう為、そこで1人別れる。ワカコさん達のホテルに一緒に向かおうかとも思ったが、僕には少し予算オーバーだったのだ。地図を片手にユースを探すが、なかなか見つからない。やっとの思いでユースに着くがすでに一杯と言われ途方に暮れる。しかしいつまでもこうしていても仕方ないので、しばらく重い荷物を抱えて歩いていると一件の小汚いホステルがあったので入ってみる。値段を聞くと1泊18カナダ$(1300円)というので、とりあえず1泊することに。

 しかし部屋に入ってびっくり、まずはその汚さ。アジアの安宿をも上回る汚さで、トイレやシャワーは使えば病気にかかりそうな程である。そして何より驚いたのが、部屋にいた頭のおかしなおじさん。真っ暗な部屋に入ると、人の声がするので何だろうと電気をつけるとパンツ1枚のはだがのデブおやじが、壁に向かって何やら叫んでいる。最初携帯電話でも話しているのかと思ったが、何も手にはもっていない。もちろん部屋にいるのは僕とパンツおやじだけだ。とりあえずお腹がすいていたので、おやじは見なかったことにして外のファストフードで食事を済ませる。2時間後部屋に戻ると、ぱんつおやじはまだ壁に怒っていたので、目をあわせないようにさっさとベットに潜り込む。

 ガンガンガン!何やらものすごい音だ。何だろうと思って起き上がると、例のパンツおやじがカギのかかったロッカーを無理矢理こじあけようとしている。他の住民も戻ってきたらしく、其々のベットで状況を見守っている。おやじは今度はロッカーに向かって怒っている。しばらくして部屋の1人が、おっさんに向かってなにやら話かけると、おやじは急ににこやかになって部屋から出ていった。部屋は元の静けさを取り戻し、再び就寝。

 1時間くらいしただろうか、部屋が急に明るくなった。どうやらおやじが戻ってきたらしい。すると今度はこのおやじ、大声で楽しそうに歌いはじめた。さすがに今度は誰もがおやじに背を向けてだんまりを決め込んでいる。いったい何者なのだこのおやじは。ぱんつおやじの1人コンサートはこの後も30程続いた。それから静かになったかと思ったら今度は歌声をいびきにかえ、気持ちよさそうに眠っている。結局ほとんど眠れないまま朝を迎えた僕は、予定より早く宿をチェックアウトし昨日のユースに向かった。レセプションで部屋の空きを確認すると、今度はOKだという。とりあえずあの化け物屋敷に戻らず済んでほっとする。ドミトリー1泊20$,約1500円。

  部屋に荷物を置いた後、街をぶらついてみる。鉄道駅、そしてCNタワーを超えてスカイドームが見えてきた。この日は祝日でメジャーリーグベースボールの、トロントブルージェイスのゲームがあるというので観戦することにする。1番安い席で、7$、約500円。席は三塁側の一番上だったが、ゲームの雰囲気を楽しむには充分だ。

  対戦カードは、ブルージェイスVSホワイトソックス。この日は投手戦で、中盤まで1対1の好ゲーム。MLBというと、球はまっすぐ、ねらうはホームランというイメージがあったらが、どっこいちゃんとノーアウトでランナーがでると、手堅くスクイズで走者を進めたりもしてソツのない試合運びをしている。ただ1つ笑ったのが、スタンドの観客の応援。最初ずいぶん熱狂的に応援するものだなあと、感心していたのだが、よくよく見てみると、試合に関係ないところで叫んだり、パフォーマンスをしたりしている。どうやらただ単にお祭り騒ぎがしたいだけみたいだ。

  試合はその後も進んで、終盤ブルージェイスが勝ち越し3対1となる。場内大興奮の中、先発投手がマウンドを降り、リリーフピッチャーがでてきた。しかもこの投手かなり球が速く、99マイル(球速158km)を連発している。異様な雰囲気に包まれながら、9回表2アウトランナーなし。カウントは2ストライク3ボール。あとストライク1つでゲームセットだ。しかしこのバッターがしぶとく粘る。応援も地響きをあげて球場内に響きわたる。そして投げた次の球。ボールはストレート、そしてバッターが打った、、、カーン。軽くあわせた打球は2遊間を抜けてセンター前に転がるヒットとなった。笑顔の1塁ベース上のバッターと対照的に、がっくりうなだれるマウンド上のピッチャー。そしてスピードガンには、この日最速の100マイル(急速160km)が表示されていた。

  これがショックだったのか、次のバッターの初球が大きく弧を描いてレフトスタンドに吸い込まれる。同点2ランホームラン、ゲームはいっきに振り出しに戻る。何とかその次の打者を押さえたが、ピッチャーはショックを隠しきれない。だがノーアウトでランナーが出た後、きっちり送って、ヒットが続いてワンアウト1塁3塁。そして次の打者は、この日ヒットのない下位打者だったが、しぶとく粘ってヒットを放ち、場内をサヨナラの歓喜が包み込む。場内にはいつまでも、いつまでもブルージェイスファンの歓声が鳴り響いていた。

  好ゲームを堪能した後、カナダ最大といわれるチャイナタウンを冷やかしてユースに戻る。まわりにはアジア人ばかりで、言語も中国語が氾濫しており、まるでアジアにいるような錯覚に陥った。

  翌日はユースの食堂で知り合った、カズ君と川崎君と3人でスーパーに買い物に行く。夕食をシェアしようと3人でカレーを作った。一人あたり約220円。なかなか上出来。

  さらに翌日、カズ君はニューヨークへと旅立ち、この日も川崎君とパスタをシェアした。昼は昨日の残りのカレーを食べる。溜まった洗濯ものを洗ったついでに、殺人的なにおいを放つマイシューズも洗濯機と乾燥機にかけるが効果無し。大ショック。買い替えどき近し。

  トロント最終日も特になにをするわけでもなく、川崎君とまたカレーを作って食べる。なんかトロントにカレーを作りにきたかのようだ。

  本当は昨日も今日も、曲をつくろうかとギターに向かったが、なぜかこの街は無気力にさせられる。他にやることもないので、川崎君と2人でトランプをした。せっかくだから握ろうということになり、ポーカーをするが、僕はまったく勝てない。あっという間にマイナス4$。

  ゲームを変えようと持ち掛けると、川崎君も2つ返事でOKだったので、得意な?大富豪にすると状況は一遍、僕が連勝を重ね一気にプラスに。といってもレートが低いので2$くらいの勝ちだったのだけど。川崎君は悔しがって、この仇はニューヨークでカズがとりますと泣いていた。(笑)

  でもこうして振り替えると、トロントではひたすらカレーを作っていたような気がする。最近少し無気力、無感動になりつつあるのだろうか。それはこの街のせいか、それとも僕の旅そのものがそういう時期にさしかかっているのだろうかと、そんなことを夜ベットの上で考えていた。

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