旅日記75 ギリシャ編
 「エーゲ海ので迎えたBirthday」

 8月14日ー16日

 マドリッドの空港で青山さんと別れた後、イベリア空港のチェックインカウンターへ向かう。しかしここで驚くべき台詞を言われた

あなたの予約は入っておりません

え???フランクフルトでチケットのルート変更で書き換えた際に、毎回初回のフライトの分は必ずリザーブを入れさせられ、チケットにまで日付とフライトNOがプリントされる。だから僕のチケットには今日の便名がはっきりと書かれており、フランクフルトのアメリカン航空でもリコンファームは必要ないと言われていた。なのに、だ

なぜこんなことが起こるんだと言うと、わからない、でも予約が入っておらず、今日は満席だから、あなたはこの飛行機には乗れないと言われる。でもどうしても今日アテネに行く必要があるんだというと、リザヴェーションカウンターへ行けと言われ、その指示に従う

するとウェイティングリストに載せるから、チェックインカウンターに並べと、さっきいたカウンターを指差す。あっちと言ったり、こっちと言ったり、いったいどっちなんだ

先程の女性と話すのが嫌だったので、すぐ隣のカウンターに並ぶ。すると今度は1度、今日の便は無理だと言われたものの、リザヴェーションで言われたことを話すと、スタンバイのボーディングチケットをくれ、一応無事チェックインすることができた

そして搭乗ゲートで待つこと、、、、かなり。どれくらい待っただだろうか。ひたすら待ったがなかなか呼ばれない

やはり無理なのかと思いはじめた頃、自分のチケットNOを呼ばれ、カウンターに行くとOKとのこと

 その後は、あっちにいけ、こっちいって座席番号書いてもらえと、右に左に駆けずり回り、何とか予定していた飛行機にぎりぎり乗ることができた

そこからアテネの国際空港に着いたのは夕方頃。しかしここでまたもやトラブルだ。預けていたバックパックが出てこない

ギターだけは無事出てきたものの、自分達の荷物が出てくるはずのターンベルトには、後から到着したフライトの荷物が回り始めている。どこかに荷物が置かれていないか、何度も何度もチェックしたが、やはりどこにも見当たらない

しかたなく、バケージカウンターに行くと、どうやら他の場所へ行ってしまったみたいですね、ホテルが決まったらこちらまで電話してくださいと、連絡先を教えてもらった

バスで600ギリシャドラクマ、約180円払って、市内のオモニア広場まで行く。そこで宿を探そうとするが、持っている地図と、実際の道があまりにも違い、また道の標識はすべてギリシャ語で書かれているので、さっぱり見当もつかず、あっちに行ったりこっちに行ったりと、しばらくさ迷い続ける。もういいかげんどこかの宿に入ろうかと思った頃、いきなり背後から日本人ですか?と声をかけられた

今、宿を探しているんです、どこか良いところはないですかねえと聞いてみると、今泊まっているところが、6000ドラクマですけど、それでよければ案内しますよと言われ、いっしょに彼の泊まっているホテルまでついて行くことにした

すると彼の言ったとおり、エアコンやファンはないものの、バス、トイレ付きのツインが6000ドラクマ、1800円とのこと。ちょっと建物はボロかったが、受け付けの人も親切なので、ここにすることにした

ホテルが決まれば、次は空港に電話しないといけない

ホテルの受け付けで事情を話し、電話が借りられるかどうか聞くと、私が話してあげるわと、受け付けのおばさんが、代わりに空港のバケージセンターへ電話してくれる。ギリシャ人同士なので話もスムーズに進み、夜の10時には荷物を持ってきてくれるという

時計を見ると、まだ8時過ぎだったので、彼女に礼を言って、道案内してくれた青年と、ケバブ屋で、ピタというパンにケバブをはさんだやつとビールを頼む。これがなかなかうまくて、1950ドラクマ、約600円

 その後、彼と話をしながらホテルのロビーで待つものの、11時を過ぎても荷物がこない。しかたないので、近くの売店で缶 コーラを買って部屋に戻り、とりあえず寝ることにした。これで200ドラクマ、約60円

シャワーをあびて、12時過ぎに眠る。しかしあまりの暑さに眠れない。少しうとうととしかけた頃、部屋の電話が鳴りたたき起こされる。電話に出ると荷物が届いたとのこと。時計に目をやると、すでに深夜4時。何が10時に来るだまったく。ギリシャ時間もいいところだ

しかし荷物にはこれといった異常はなく、無事手元に帰ってきたのでよしとしよう。これで明日移動できる

 翌日、起きるとホテルをチェックアウトし、ユースホステルへ向かう。しかしまだ朝の10時過ぎだというのに、フルだと言われる。しかたなくあちこちのホテルへ飛び込みで聞いてまわるが、予算オーバーだったり、安くても部屋に空きがなかったりで、なかなか見つからない

そうこうするうちに、オモニア広場から歩いてすぐのホテルが、朝食とファン、バス、トイレ付で、7000ドラクマと言われる。少し高いが、部屋もキレイでこれなら悪くはない

一応ディスカウントしてみるが、この部屋でこの値段なら悪くないだろうと言われ、それも道理だとそのままここに決めてしまう。僕的にはかなり背伸びしたホテルだが、明日は自分の誕生日なので、バースデープレゼント代わりに、このホテルに泊まることにした。これで1泊約2100円

部屋に荷物を置いて、身の回りのものをチェックしていると、重大なことに気づく。残り確かに6000ドラクマあったはずが、5000ドラクマ札が消えている。朝ホテルを探しているときには、まだ持っていたので、どうやらどこかで落としたらしい。日本円にすればたかが1500円だが、今の僕にとっては大金だ。まったくどうかしている。体調もあまり優れなく、少し疲れているのだろうか。今日はあまり無理をしないようにしよう

午後から地下鉄に乗って、シンダグマ広場へ行き、そこから歩いてアクロポリスの丘へ登る。途中、大阪の大学生と一緒になり、2人でパルテノン神殿へと行った。この日は祝日とかで、入場料2000ドラクマが無料になる。ちょっとラッキーだ

しかしパルテノンは今、修復の為まわりに鉄のやぐらが組まれていて、ちょっと味気ない。アクロポリスの丘からの眺めも悪くなかったが、結構期待していたので、ああこんなものかと、ちょっと拍子抜けする

あまりに暑かったので、彼と夕方6時にオモニア広場で待ち合わせをし、宿に戻ってシエスタ(昼寝)をする。しかし局のメロディが浮かんできたので、結局時間まで部屋で曲を書いていた

夕方2人で昨日行ったケバブ屋で、またケバブピタを注文する。食事しながら話ていると、なぜか話題は急に恋愛の話になり、いつの間にか彼の恋愛相談になってしまっていた。彼いわく、最近彼女とうまくいっていないが、それでも彼女のことがすごく好きだという。たいした言葉はかけられなかったが、それでも人に話してすっきりしたのか、がんばりますと笑って言っていた。どんなに喧嘩したり、悩んだりしても、ちゃんと精一杯の自分で相手と向き合っている姿は、やっぱりいいもんだなと思う

食事の後、ギターを持ってリカビドスの丘へ登る。本当はケーブルカーで行くつもりだったのだが、乗り場が見つからないまま、結局歩いて登ってしまった。夕日を見るはずが、なぜか夜景をみるはめに。どうせなら恋人ときたかったねと笑う

満月と、星空のように明かりが灯るアテネの町並みにむかって、1時間ほど歌った後、帰りも歩いて来た道を戻った

彼と別れて宿に戻ったのが夜の11時過ぎ。そしてシャワーを浴びてそのまま就寝

3日目、この日は自分の誕生日。少し前から誕生日をどこで過ごすか迷っていたのだが、イスタンブールはバスで片道20時間で、しかも5000円近くかかり肉体的にも金銭的にもきつい。またミコノス島も、ギリシャきっての観光地だけあって、ちょっとひかれたが、滞在を延期するため空港までリザベーション変更をしに行かねばならず、それも面 倒だったので、日帰りでいけるところと、エーゲ海の島で、日帰りコースではもっとも遠くにある、イドラ島へ行くことにした

地下鉄で20分のところにある、ピレウス港まで行き、さらにバスで15分走ったところにあるゼア湾へ。そこからさらに高速船でイドラ島へと向かう。地下鉄が200ドラクマ、60円にバスが150ドラクマ。45円。そして高速フェリーが4400ドラクマ、約1320円

 まだ出発まで1時間程あったので、高速船乗り場前でガイドブックを広げていると、自分の両親くらいのご夫婦に声をかけられる

お名前を高田さんとおっしゃり、横浜にお住まいの紳士服のデザイナーさんとのこと。ご旅行が好きで、毎年ご夫婦であちこち行かれているらしい。ご主人は日本酒好きらしく、紙パックのお酒を沢山持ってきているとかで、進められたが、あいにく僕は日本酒がダメなので、辞退すると、日本のあられやら、うるめイワシやら、スルメやらのおつまみをたくさんくださった

話の中で、今日自分が誕生日であることを話すと、それはお祝いしなきゃと、イドラ島のタベルナ(大衆レストラン)で、ビールとイワシやイカのシーフードなどをご馳走してくださった。今年は1人きりのバースデーだと思っていたので、うれしい誤算だ

しかも15年ぶりぐらいに、自分の両親に祝ってもらっているようで、日本にいる両親とお二人が重なって、ちょっと可笑しな気持ちになる。親父達は元気でやってるだろうか

 お二人と別れた後、せっかくエーゲ海の島へ来たのだからと、ビーチでゆっくりと過ごすことにする。港から歩いて西の方角へ20分程行くと、小さなビーチが点在していた。水は少し冷たかったが、それでも真っ青な海と空、澄んだ空気と暑い日差しの中で、ゆっくりと時間が流れていく。できれば恋人と2人できたかったが、こうやって20代最後の誕生日を、たった1人、遠い異国の島の浜辺で自分を見つめなおすのも悪くない

夕方5時半過ぎに、港へ歩いて戻り、帰りの船の予約を入れる。行きは高速船で2時間ほどだったが、帰りの船は3時間半のクルーズ船。時間は倍だが、そのぶん値段は約半分の、2300ドラクマ、約700円

ポロス島を通って、船がエギナ島へ差し掛かる頃、西の空は真っ赤に染まり、遠くオリンピアの方角へ、太陽がみるみると沈んでいった。青い海と赤い空というのも何ともいえない、幻想的な美しさを感じる。そして長くて短い29歳のBirthdayはこうして終わろうとしていた

船がピレウス港へ戻ってきたのが夜の10時前。そして地下鉄に乗って、宿に着いたのは11時を過ぎようとしていた

28歳の自分と29歳の自分。昨日の僕と今日の僕にどれほどの違いがあるのだろう。いや僕は僕のまま、何も変わりはしない。いままでも、これからも、ずっと僕は何もかわらないまま、いつか胸の鼓動がとまりゆく瞬間を求めて、こうして歳を重ねていくのだろうか

しかし1日1日が過ぎて行く中で、また新しい人や、新しい場所、新しい何かと出会って、僕はまた1つ、新しい何かをこの身体と心で感じ、覚えてゆく。きっとこうやって、何かを得たり失ったりを繰り返しながら、走り続けていくのだと、ぼんやりそんな風に感じていた

 でもいつか人生最後の瞬間が訪れた時、笑って楽しかったよとそう言えるよう、僕は今日と明日を精一杯の自分で、生きてゆきたいと思う。

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